作品解説
遠くで銃声が聞こえる不安定な情勢の下、丘の上の小さな家に、病身の夫と暮らす女性ナバットの物語。毎朝、ナバットは谷向こうの村まで牛乳を届けているが、やがて時代の波が地域を覆う…。荒涼たる周囲の大自然と、たくましくも孤独なヒロインの心情を淡々と綴る雄弁なカメラワークが際立つ作品。
ソ連解体後の1991年、テレビでドキュメンタリーを作っていた監督は、戦争にまきこまれていた故郷アゼルバイジャンにて村からの避難を拒む女性のエピソードを知り、以来映画化の構想を温めていたという。「母親たちにもっと権力が与えられたなら、世界はよりよい場所になるに違いない」と語る監督は、戦地にある息子を想う母親の気持ちを、淡々と慈愛がにじみ出るような演出で描いている。ヒロインが長い距離を歩いて谷向こうの村に牛乳を届けに行く冒頭の長いショットに象徴されるように、本作ではキャメラが何よりも雄弁である。ヒロインの行動のひとつひとつを丁寧に追い、やがてフレームの中は奇跡のような驚きで満ちてくる。主演のファテメ・モタメダリアはイランを代表する女優のひとりであり、孤独を生きるヒロインの心中を見事に表現している。
●東京国際映画祭オフィシャルニュース 映画.com ニュース
⇒ 10/26:イランの名女優ファテメ・モタメダリア、若手映画作家の「新鮮なエネルギー」に期待
○オフィシャルレポート
→11/11:「すべての戦争に対する示唆というのを描こうとしています」コンペティション『ナバット』-10/28(火):Q&A
→10/27:「どんな国の戦争でも、お母さんについての映画を考えております。」コンペティション『ナバット』-10/24(金):Q&A