第27回東京国際映画祭で新設された“SAMURAI (サムライ)”賞の初年度の受賞者である北野武監督を招き、「日本映画の未来と今」について語り合うトークイベントが開催されました。
■日時・場所:
10/25(土)~ @六本木ヒルズ49階 アカデミーヒルズ内タワーホール
■登壇者:
北野武監督、トニー・レインズ(映画製作者/映画評論家/キュレーター)、
クリスチャン・ジュンヌ(カンヌ映画祭代表補佐)、「PFF」各賞受賞監督、「日本学生映画祭」受賞監督
トークショーの前半では、若手の映画監督からの質問に対し、「自分が描きたいものを自分なりに描けばいい。でも、嫌いなものも認めるという余裕も必要で、自分の好きなことを他の意見もあると思いながらつくっていけばいいんじゃないか。みんなマジメすぎるよね。余裕をもって、常に自分を客観的に見た方が追い詰められなくていいと思う」と、独自の映画論について時に冗談を交えながら、北野監督はお話しくださいました。
トークショー後半では、日本映画に造詣が深いトニー・レインズ氏とクリスチャン・ジュンヌ氏も登壇し、北野監督の作品や日本映画について語っていただきました。日本映画に興味を持つきっかけとして、黒澤明や溝口健二、小津安二郎などの監督を挙げたレインズ氏とジュンヌ氏。最近の日本映画について、「映画の未来は今、この舞台の上にいる若い監督たちによってつくられます。かのオーソン・ウエルズ監督の有名な言葉で、“彼らは、未来を使い果たしてしまった”、というものがありますが、大会社による映画製作は終焉を迎えています。これからは若者が映画づくりの未来を担い、シネマというものをつくり上げていくと思います。映画づくりは学校でも学べますが、自分でつくることが最もよい学び方です」と、述べたレインズ氏にジュンヌ氏は同意し、「映画の未来は若手監督にあり、これは日本映画に限らず、全世界的な映画製作について言えることです。世の中の変化と共に監督も変わり、映画のメッセージもその伝え方も変わるでしょう。若手監督の皆さんが伝えたいメッセージを発信できることを願っています」と、語りました。北野監督は、「日本で作品の悪口ばかり言われていた時に初めて評価してくれたのがトニーさんで、いまだに恩義を感じている。だから若手監督のみなさんも、誰がどこで見ているか分からないので、好きな映画を撮った方がいい」と、述べました。
北野監督に興味を持つきっかけとなった作品についてジュンヌ氏は、「始めて北野監督の作品を見たのは、役者として出演した大島渚監督の1983年の作品、『戦場のメリークリスマス』でした。その後、監督作品を見たのは、『ソナチネ』でしたが、非常に印象的で、今でも北野監督の映画の中で一番好きな作品です。映画を見終わった後に残るノスタルジア、寂しさのような感情が、北野監督の作品に惹きつけられるところです」。レインズ氏は、「80年代の終わりに、『その男、凶暴につき』を見て素晴らしいと思い、バンクーバー国際映画祭で上映しました。その後の活躍は、皆さんご存知のとおりです」と、述べました。
日本の若い監督の作品が海外で評価されるために必要なものについて、レインズ氏が、「商業映画の未来は、ごく少数の大手企業が握っています。ほとんどの若い監督は、そこに入り込みブレイクのきっかけとすることはできないでしょう。少なくとも近い将来においては、メジャーな商業映画にかかわるチャンスはさらに限られたものになっていきます。ですが別の媒体、つまりインターネットにおける配信方法を開拓するという方法があります。大きな劇場で上映されていない作品を見つけるということが、今後多くなっていくと思うのです。若手監督の皆さんは、新しい発信方法を追求すべきです。そして何よりも、良い作品をつくること。良い映画をつくれば、世界は注目します。世の中には優れた映画はそれほど多くありません。意外に思われるかもしれませんが、競争相手はそれほど多くないですよ」と、述べると、北野監督は、「何が必要かなんて、どうすれば宝くじが当たるかというような話だから、それは自分で探すしかない。参考意見としては受け止めていいけども、つくるのは自分だから。自分の世界を構築することがベストであって、自分で新しいものを見つけるかもしれない。私はがんばれとは言いません。若い芽は早く摘んでおいた方がいいですから」と、北野監督らしいコメントで、舞台上の若手監督にエールを送りました。