Home > ニュース > 「本当に隅に追いやられてしまうと、正しい選択をできるようなオプションがない」コンペティション『ザ・レッスン/授業の代償』-10/30(木):Q&A
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2014.11.13
[イベントレポート]
「本当に隅に追いやられてしまうと、正しい選択をできるようなオプションがない」コンペティション『ザ・レッスン/授業の代償』-10/30(木):Q&A

lesson

©2014 TIFF

10/30(木)、コンペティション『ザ・レッスン/授業の代償』の上映後、ペタル・ヴァルチャノフ監督と女優のマルギタ・ゴシェヴァさんのQ&Aが行われました。
作品詳細
 
 

ペタル・ヴァルチャノフ監督(以下、監督):みなさんこんばんは。本日、ここに来ていただいて大変ありがとうございます。私たちにとってはこのように東京国際映画祭に参加できたことを、大変光栄に思います。一年ほど前には全くお金もなく、友人たちが手を取りあってこの映画の制作にあたりました。まさかこのような形でここに来られるとは想像もしていませんでした。皆さんありがとうございました。
lesson (2)

©2014 TIFF

 
マルギタ・ゴシェヴァさん(以下、マルギタさん):本当に、みなさん遅い時間まで、この上映の後に残っていただいてありがとうございます。これが大変いい兆しだと思っています。みなさんたくさんご質問していただいて、それにお答えしたいと思います。ありがとうございます。
lesson (3)

©2014 TIFF

 
Q:オープニングとエンディングがちょうど黒板にチョークでものを書くシーンで始まって、ブックエンド(始まりと終わり)にそれが終わるという感じだったのですけれども、これはこの映画のタイトルのレッスンというのはその意味ではないかと思ったんですけれども、いかがでしょうか?
 
監督:ご質問ありがとうございます。それこそまさに私たちのアイディアで、黒板にものを書いている音で、このレッスンが何のレッスンだったのかということをみなさんに想像していただきたかった。あくまでも音とイメージだけで何の教訓、何の授業をしているのかを考えていただきたかった。というのが意図でした。私たちが何かの答えを押し付けるのではなくて、先生のキャラクターに対してですね、勝手な判断を押し付けるのではなくて、観客の方々にその答えを考えていただきたいというふうに思って、あのエンディングにしています。そして、この音によって映画と観客の方々をつなげているんですけれども、なかなか難しい、私だけがわかっている演出かもしれないですが、だんだん音が低くなっていくというか、それによって授業と観客の方々を結び付けたいというふうに考えました。
 
Q:音に関してお聞きしたいのですが、映画の中で虫の声をとても効果的に使ってらっしゃったと思うんですが、日本だと虫の声というのは季節の移り変わりとか、そういった情緒を表すシンボルとして用いられますけれども、監督はどのような意図で虫の声を使われたんでしょうか?
 
監督:今回この作品では音楽は使わないというふうに決断したので、音楽を使ってしまうと私たちの視点というのが映画の中に反映されてしまって、今回はこの作品というのはできるだけ距離を保ちながらストーリーを伝えたいという意図で音楽は使いませんでした。このストーリーの中心というのはすべてこの女優さんというか、主役の方を中心に回っているので、それ以外のものはできるだけ排除していきたいというふうに思いました。なかなかそれが難しくて、彼女の視点を尊重するためにセット上にあったすべての要素を活用して、そして彼女の心の中を表現できるようにしていきたいというふうに考えました。あくまでもこのストーリーの中心は彼女なので、彼女の視点でこのストーリーを伝えられるように、彼女の感じているすべての細部、たとえば彼女が何を見たのかとか、彼女が何と接したのかとかすべての細部にわたって表現することで彼女が何を判断して、どういう反応をしたのか、何を考えていたのかということを表現したいというふうに考えました。音というのは大変重要な要素で、音楽なしだとすごく難しいものだったので、ご質問いただいて嬉しく思います。映画に音楽が使われるのはすごく好きなんですけれども、今回はこの主役の視点を中心に描くということで、こういう撮り方をしてます。
 
Q:マルギタさん、この役を演じるに当たって、主人公の内面を表現するためにどのようなご苦労をされたかということ、あるいは監督からどのようなアドバイスがあったのか、参考にしたものがあったのか、そのあたりを教えてください。
 
マルギタさん:もしかしたら、どうやったら教師が銀行強盗なんかできるんだろうと不思議に思われているかもしれませんが、これはブルガリアで実際に起こったことなんです。新聞の見出しに「教師が銀行強盗をする」と載って、そこからインスパイアされてこのストーリーができあがったんですが、自伝ではなくて、あくまでも彼らのイメージを膨らませて作ったフィクションです。
そして、たまたま私が銀行強盗をした犯人のインタビューをテレビで見たので、そこまで難しくなかったです。実際に彼女の振る舞いを見て、一番トリッキーだったのが、彼女のマスクの内側を紐解いていく、彼女がテレビのインタビューで仮面をかぶっているように見えたので、その彼女の内側にあるものはなんだったのかということをとても情熱的に私が知りたいと考えまして、そして、その内側を紐解いていく作業が、非常にチャレンジングでした。
 
監督:ちょっと裏話ですけれども、撮影中のお昼休憩を取っているときに、生徒さんがマルギタのところにやってきて、「実際の生活では何を教えている先生なんですか」と聞いてきたんですね。
 
マルギタさん:そのあとに、「近くのお店まで何か買いに行ってきていいですか」と聞かれたので、「10分で帰ってきてくださいね」とちょっと先生らしく答えていました。
 
司会:矢田部PD:そもそもの諸悪の根源は、何であんな男と結婚したのかなと思うのです。もしかしたら、お父さんに対する反発心で結婚しちゃったのかなとも話していたのですが、そこの背景を教えてもらえますか。
 
マルギタさん:実は、本当の夫なんです。でも、本当はすごくいい俳優さんなんです。ブルガリアではすごく有名な役者で、本当にすばらしい人なんですけれども、私よりずっと有名なので、今回監督に「お願い」と言って出してもらったんです。
 
監督:彼は演じてないです(笑)。お父さんとしてはいい人です。ちょっとしか出ていないキャラクターですが、このストーリーの核となる、エンジンとなる存在で、できるだけいいお父さんとして描いています。
 
Q:今諸悪の根源を分析されましたけれども、ご本人に諸悪の根源を伺ってみたいです。
 
マルギタさん:彼女はいろいろと選択をしなくてはいけなくて、それも大変重要な選択をすぐにしなくてはいけなくて、彼女の罪というのは、自分が行った選択に対する罪なんだと思います。他にもできたことはいろいろあって、例えばお父さんからお金をもらうということも選択肢としてはあったのですけれども、難しい方を選んでしまったということが根源かなと思います。
結局それは彼女の尊厳を奪うことになって、それまでずっとやってきたことは彼女の尊厳を守ることなのにもかかわらず、結果的に尊厳が代償として奪われてしまったということです。
 
矢田部PD:すごく間違った選択をしたかもしれませんが、見たときにもうあまり選択肢がないなと思わせることがこの脚本のすばらしいところだと思います。
 
監督:そうですね。ブルガリアだけではなくて、世界でもそうだと思うんですけれども、一般市民というか、小市民の人たちが、システムから本当に隅に追いやられてしまうと、正しい選択をできるようなオプションがない、ということに陥るんではないかと思います。ですが、この作品の中の彼女はそういった状況を受け入れず、だから何かをしようと行動をとるんですが、本当にこれは彼女の切実な反撃と言えると思います。結局、彼女の原則を主張したことによる被害者に彼女はなってしまったのかなと思います。
 
Q:彼女のプライドに対する断罪という解釈をした方がよいのでしょうか。
 
監督:そうですね。それが彼女の問題というか、そういうことだと思います。
 
マルギタさん:撮影の前に、このプロットとかどういう作品に仕上げたいのかということについては、いろいろと話をしたんですけれども、その中で、彼女は環境の被害者というような形には描きたくないなと言っていました。あくまでも、彼女が選んだ選択肢によって災難が降りかかるんだということを描いています。なので、起こったことはすべて彼女の責に帰するもので、他にも彼女に優しい人はいます。例えば、彼女のお父さんとか、旦那さん。ちょっとしょうもないと思ったかもしれないですけど、子どもに対しては優しいですし、子どももお父さんと居たがっている。なので、彼女の責任、彼女のせいなんです。
 
監督:それが、このキャラクターの悲劇的な要素だと思います。それによって、このストーリーがリアリスティックになってくる。
 
マルギタさん:誰でも自分が譲れないもの、自分の原則といったものを持っていて、それが結果的に自分を罠に落としてしまうことはあると思うので、彼女が言う「自分が選んだ道」「自分の選択肢」はあくまで自分の選んだ道で、自分が正しいと思っている道というのは、その他の人にとっては必ずしも正しいものではないということだと思います。
 
監督:最初から、そうですよね。
 
マルギタさん:生徒が盗みを働くんですけれども、誰かに強制的に盗めと言われたわけではなく、自分で盗んでいるわけです。
 
矢田部PD:ありがとうございます。人生の選択肢というものをきちんと考えて、少なくとも小銭は常に持っていようと思いました。
 
マルギタさん:すみません。一曲歌わせていただいてもいいですか。歌う機会がなかったので。
 
〈「手のひらを太陽に」を日本語で歌う)
 
矢田部PD:さすが学校の先生!素晴らしい!映画祭を締めくくるのに素晴らしいエンディングになりました。ありがとうございました。

木下グループ 日本コカ・コーラ株式会社 キヤノン株式会社 株式会社WOWOW フィールズ株式会社 アウディジャパン株式会社 大和証券グループ ソニー株式会社 株式会社TASAKI ソニーPCL株式会社 株式会社ぐるなび カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 松竹株式会社 東宝株式会社 東映株式会社 株式会社KADOKAWA 日活株式会社 森ビル株式会社 TOHOシネマズ株式会社 一般社団法人映画演劇文化協会 読売新聞 J-WAVE 株式会社ドワンゴ スカパーJSAT株式会社 THE WALL STREET JOURNAL テレビ朝日 LINE株式会社 BS日本映画専門チャンネル セイコーホールディングス株式会社 株式会社エアウィーヴ MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社 CineGrid ゲッティ イメージズ ジャパン株式会社 株式会社クララオンライン
KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第26回 東京国際映画祭(2013年度)