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2014.11.13
[イベントレポート]
「表情だけで多くのことを伝えられる人というのがいる」コンペティション『草原の実験』-10/30(木):Q&A

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©2014 TIFF

10/30(木)、コンペティション『草原の実験』の上映後、アレクサンドル・コット監督のQ&Aが行われました。※コチラはネタばれ無しです!
作品詳細
 
 
アレクサンドル・コット監督(以下、監督):みなさんこんにちは、この度は東京国際映画祭のオーガナイザーの皆さんに、私の映画を招待してくださったことを感謝申し上げたいと思います。私は今回、日本に来るのは初めてで昨日到着したばかりなので、日本についての印象を申し上げるのは難しいのですが、この2日間でお会いした方々はみんな素晴らしい人たちばかりでした。私の映画についてなのですが、大きな映画館で上映するようなタイプの作品ではないので、こうした映画祭という場は非常に向いているのではないかと思っています。
 
Q:本作でセリフを使わないという手法をとった理由は。
 
監督:まず、最初の質問に対してですが、映画というのはそもそもセリフというものがないところから始まったということ。また、セリフのある時代に入ってからも、今語られるセリフと数十年前のセリフとではまったく異なった意味を持っているということ、の2点が私の中にはあります。後者については例えば、同じ“I love you”という言葉でも、19世紀に語られるのと今の時代に語られるのではまったく違う意味を持っているということです。
また時として、沈黙というのは具体的なセリフよりも多くのことを語ると私は考えています。私はこの作品を作るときに、セリフは完全に排除して映像だけでストーリーを伝えようと思いつきました、これは私にとって非常に難しいチャレンジでしたが。そしてその上では表情が豊かな役者が必要であり、そうした人を探すことは大変興味深い作業となりましたが、私はその作業を通して世の中には表情だけで多くのことを伝えられる人というのがいるということを知りました。
またセリフについてですが、人間同士の関係が近ければ近いほど、意思の疎通により少ない言葉しか必要としないということがあると思います。私はかつて、田舎に住んでいる老夫婦の家に宿泊させてもらった経験があります。その老夫婦は50年連れ添った夫婦だったのですが、私が宿泊している1週間の間に彼らの間で交わされた会話はたったの2回でした。それでも彼らは十分にお互いのことを理解しあっているように見えました。
映像だけでストーリーを伝えるという本作は私にとって純粋な「実験」(原題“Test”)でした。最近は誰でも簡単にカメラを手にし、映像を撮影することで自分は映画監督だと名乗れる時代になってしまいました。そうした簡単に映画を作れる時代において、芸術という意味での映画のもつ価値や地位というものが徐々に低下していると私は感じています。10年ほど前はきれいな女性に対して『私は映画監督だ』と名乗るだけで彼女たちの興味を惹けたのに、最近はそうした手が使えなくなってしまいました(笑)。世の中の2人に1人が映画監督だと名乗れる時代になってしまったからです。
 
Q:非常に美しく、衝撃的な内容と同時に主演のエレーナ・アンさんが大変深く印象に残りました。彼女を起用した経緯や、プロフィールについて教えていただけないでしょうか。
 
監督:主演のエレーナ・アンさんについてですが、国籍は韓国の方です。父が韓国人、母がロシア人という家族構成です。最初はヒロインとなる女優をロシアやカザフスタンで探していたのですが、なかなか見つからなかったところに彼女が現れたという経緯があります。撮影時は14歳だったので、現在は15歳になっているはずです。女優を探すときに重視したのが、少女でもなく大人の女性でもない、非常に幅の狭い年齢の女性ということでした。最初に別の14歳の女優を見つけていたのですが、作品の準備をしている間に彼女がすっかり女性らしくなってしまったため、代わりの女優を探しなおすことになりました。その結果、エレーナ・アンさんを見つけることができました。
 
矢田部PD:ありがとうございます。少々つまらない質問をしてしまうのですが、本作を前に見た人が、非常に宮崎駿作品の世界観に似ているという感想をもっていました。監督は宮崎駿作品を見たり、意識したりしたことはありますか。
 
監督:宮崎駿監督のことは知っています、昨年長編映画の制作から引退しましたね。ただ私が宮崎駿監督を知ったのはたったの2年前のことでした。今6歳の私の子どもと一緒に宮崎駿作品を見たときに、こんなに素晴らしい監督がいるということを知り、すべての宮崎駿作品を見返しました。そしてよい意味でのショックを私は受けました。というのも、それまではアニメといえばディズニーの作品しか知らず、世界的に優れたアニメ作品はディズニーしかないという印象でいたからです。しかし宮崎駿作品を知り、子どもにとっても大人にとってもわかりやすい、素晴らしいアニメ作品ばかりだと感じました。
 
Q:画の力がすごく強くて、構図もアップとロングの使い分け、各シーンの静と動の使い分けというのが大変優れていて、少女の心理描写が巧みに表現され、素晴らしい映画に仕上がっていたと思います。監督がこの映画を作るにあたって、影響を受けたほかの作品があれば教えてください。また、この映画を撮影したロケ地を教えてください。
 
監督:この映画を作るときに影響を受けた監督は2人います。1人目はオランダのヨス・ステリング監督で、『イリュージョニスト』(1983)や『ポインツマン』(1986)といった作品を撮っています。やはりセリフのない映画を作るという特徴があり、彼の作品を見たことでセリフがなくても映画を撮れるということを確信しました。
もう一人がメル・ギブソン監督で、特に影響を受けたのが彼の『アポカリプト』という作品です。その作品はコロンブスが発見する前のアメリカ大陸を舞台にしていて、原地の部族が女性の愛をめぐって争いを起こしたりしているのですが、海岸へ出たところ遠くの方にコロンブスの船が見えるという場面があります。つまりはそれまで部族の中で起こっていた争いというのは、その後コロンブスがもたらす悲劇に比べるとまったく取るに足らないものだったという対比がそこでは描かれています。
撮影地はウクライナのクリミア半島です。最初はカザフスタンで撮影しようと考えていたのですが、撮影機材を持ち込むのが大変だったためクリミア半島で撮影したという経緯があります。

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