左からクラウディオ・ノーチェ監督とアドリアーノ・ジャンニーニさん
10/30(木)、コンペティション『アイス・フォレスト』の上映後、クラウディオ・ノーチェ監督と俳優のアドリアーノ・ジャンニーニさんのQ&Aが行われました。
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クラウディオ・ノーチェ監督(以下、監督):東京に来れて非常に名誉に思っています。たくさん来て下さってありがとうございます。東京に作品を持ってくることは私たちにとって非常に大きな経験になっています。
アドリアーノ・ジャンニーニさん(以下、ジャンニーニさん):みなさん、こんなにたくさん来て下さってありがとうございます。ここに来られるのは非常に名誉に思っています。これから色々質問を受けると思うのですけれども、全部ちゃんと答えられるように祈っています。
司会:矢田部PD:ありがとうございます。私から1問、お伺いしたいんですけれども、色々たくさん見所があるのですけれども、作品の出発点となったのは、山の中でスケールの大きいサスペンスを撮ろうと思われたのか、移民の物語を取ろうと思われたのか、また復讐のドラマを描こうと思われたのか、企画の出発点を教えてください。
監督:この出発点となったのは復讐の物語というテーマでして、ジャンル映画としては非常に良くあるテーマですけれども、そこにスリラーのメカニズムを応用することを考えて、それと同時に現実問題との接点を失わないようなものにしようという風に考えました。それは移民問題であってイタリアで大きな問題なんですけれども。ですから復讐、スリラー、現実問題という風に動いていきました。
Q:監督に画面作りについて伺いたいです。映画が上映されたあとの、テレビでの上映とかスマートフォンで見るっていうサイズも考えて絵作りされているのでしょうか?
監督:いえ、そのことは全く考えていませんでした。ディストリビューション(公開)のことについてはこれから、どんどん考えていかなければいけないんでしょうけども、実際には考えていません。間近で撮ったショットと開けたショットを交互に使ったというのは、人物にすごく近づいて、心に近づく部分と、それからもっと遠ざかって非常に広大な自然を映す。それを交互に見せたかった。そういう意図があります。
ジャンニーニさん:というのも、役者たちの顔がすごく表現力があったので、どうしても近づきたいという気持ちが生まれてきたんじゃないかと。
Q:クストリッツァ監督を役者として演出する際に、監督としてどういう意識で臨んだのかということと、逆に言うと高名な監督と一緒に演じる側の気持ちというのも聞いてみたいと思いました。
監督:クストリッツァの演出というのはエモーショナルな感じで、非常に感動させられたんですけれど、ただ彼は偉大な監督だということで、自分にとっては難しくて、最初は心配な気持ちが大きかったんですけれども、彼は僕自身の映画の撮り方、見方というものを、話したり観たりしながら理解してくれて、それをサポートしてくれて、彼自身がこの役というものについて考えていることも、この役に付け加えてくれたおかげで人物がすごく大きく成長したのだと思います。全体としてはすごく大きな素晴らしい経験になりました。
ジャンニーニさん:クストリッツァは見て分かるように、巨人で、すごく大きな人間なのですけれども、それはアーティスティックな意味でも、クリエイティビティ的な意味でも大きな、非常にそういうものに溢れた人間なんですね。現代の映画の中で神話的な存在になっていると思うんですけれども、やはり彼のような人間と仕事ができるのは非常に刺激的なものです。彼はアーティストとして色んな事に対して全てに疑問を投げかけて、色んなものについてディスカッションしていくようなタイプですけれども、それによってクリエイティブな意味合いを色々なものに付け加えてくれて。彼のような人間と役者として仕事をするのは非常に素晴らしかったです。演じているときもそうですし、夜に食事に一緒にいって話をするときも非常に多くのものが得られました。彼は色々なものを知っていますし色々な思い出だとか、非常に文化的に大きなものを持っているので、そういったものを得られたことも非常に大きかったです。
司会:矢田部PD:ノーチェ監督がOKを出してもクストリッツァさんがダメということはあったのでしょうか?
監督:そんな形にはなりませんでした。全くNOと言われたことはありませんでしたけれども。彼は私に対しても映画のスタッフ全体に対しても、アドリアーノに対しても信頼してくれた瞬間から基本的には、自分を委ねてくれました。ただ何度か、彼は自分の役柄のこととか色々考えてくれたわけですけれども、彼の非常に大きな才能を時々どかさなければいけなかった、「それはないんじゃないかな」と言わなければいけなかったときがあって、それは暴力的なシーンに関して、彼は彼自身の映画でちょっとグロテスクに、アイロニカルに描くシーンがあるのですけれども、そういう風にしたらどうだと言っていました。ただそれはそういう風に解釈しようとしたんですけれども、それはこの映画では違うので、非常に素晴らしいことですけれども、ここでは使わなかった。ただそういう風に彼と対決するような場面があったのも素晴らしい経験になりました。
Q:興味深かったのは先ほどの移民問題で、この映画ではかなり移民の方々がいっぱい入ってきて、あの村でも不法入国もみんなで結託してやっていたようなところもありましたが、こういう状況というのは実際にけっこうあるのでしょうか?
監督:そうですね、これは実際に今現実にイタリアにある非常に大きな問題の一つですけれども、イタリアという国はアフリカにも近いですし、アフリカから頻繁に移民の波が押し寄せてくるわけです。それをどのように受け入れていくのかというのが今のイタリアの問題になっていて、アフリカから来る移民というのは飢えですとか貧しさだとか戦争から逃れてくるわけです。ただその解決方法を見つけていかなければならないのですが、それを今模索しているところで法的にきちんとしたものを、形で何とか解決できなければいけないという風に思っています。
ジャンニーニさん:一つ付け加えたいところがあるのですけれども、イタリアは3000年前から人の行き来が激しくて東西南北色々なところから移民の問題や侵略があった国なんです。イタリアの今の文化はいろいろなものの融合で生まれていて、それがイタリアの芸術をなしているわけなので、それをうまく融合させたものがイタリアというものを作っているというのは言っておきたいと思います。
監督:もう一つ付け加えると、20年前、この映画でも少し描かれていますが、旧ユーゴから難民が押し寄せてきて、イタリアに入ってきていたわけです。その20年後、今度はアフリカからイタリアに難民が入ってきて、それで彼らはイタリアに残るのではなくて、イタリアから中央ヨーロッパの方に行こうとして、いい生活を求めて動いているわけです。だから歴史は繰り返すということを言っておきたかったです。
Q:今日この映画を見に来たきっかけは、私の友人がシンガーソングライターをやっていて『アイス』という音楽を作ったものですが、その曲を使われたのはなぜですか?
監督:信じられない!ロケハンにいたときに、たまたまあなたの友人のマルコと会って、ちょうど私が探していたタイプのカントリーミュージックのような曲を彼が書いていたわけです。アドリアーノの人物像にぴったりくるような音楽を探していたわけですけれども、それがイタリア人であって、一種のカウボーイであって、そこからこの場所から逃げていこうっていう気持ちを持っているカウボーイっていう、そんな人物にまさにぴったりな曲を彼が書いていたので、それを使うことになりました。