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2014.10.28
[インタビュー]
「会ったことのない人の考え方に共感し、好きになることはあるんだと思います」公式インタビュー CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ 『先生の日記』

先生の日記

©2014 TIFF

 
「会ったことのない人の考え方に共感し、好きになることはあるんだと思います」――
ニティワット・タラトーン(監督/脚本)

作品詳細
 
国際交流基金アジアセンターとタッグを組んで始まった新部門CROSSCUT ASIA。第1回となるタイ映画特集で、記念すべきオープニング上映に選ばれたのが『先生の日記』だ。僻地にある水上の小学校に赴任した男性教師が、前任の女性教師が残した日記を読んで恋心を抱く。一方、女性教師も人生の苦労を重ねるうちに男性教師の存在に気付く。顔も知らない相手に恋するふたりの心の揺れ動きを、技ありながらシンプルにまとめたニティワット・タラトーン監督に話を伺った。
 
 
──この映画は、日記を読んでまだ見ぬ相手に恋心を描いて、結婚に至る実話をもとにしています。この話を聞いたとき、どんなふうに思いましたか?
 
ニティワット・タラトーン監督(以下、タラトーン):凄くロマンティックで感動的だと思いました。あと特別な何かがあると感じました。普通はつきあうとき、顔を見て気に入って、考え方は後から付いてくるものです。考え方だけ知って恋に落ちるところにインスピレーションを掻き立てられました。
 
──多くの映画は人と人が出会うことから始まりますが、この作品では、出会いは最後の瞬間に凝縮されています。技ありの脚本と感じました。
 
タラトーン:確かに難しかったのですが、会ったことのない人の考え方に共感し、好きになることはあるんだと思います。だからあえて、ふたりが知り合わないようにして、最後の瞬間に出会って終わらせようと決めていました。
 
──時間軸の異なる男女を交互に描くアイディアも最初からあったのですか?
 
タラトーン:そうです。ただしふたりのキャラクターを全く違うものにしました。エーンは教え上手だけど、頑固な性格が災いして僻地の学校に転勤させられます。彼女は虚しさを感じますが、次第に田舎の子どもたちに教えることに魅力を覚え、そのことを日記に記します。誰かが読むことは想定していません。
 エーンが去ったあと、体育教師のソーンが赴任します。教えるのが下手な彼は偶然その日記を見つけて、知らない人が書いたことから学んで自分もいい先生になろうと努力します。しかし再び転勤を命じられ、教師として自覚を与えてくれてありがとうと、同じ日記に書いて去っていく。
 エーンは自分の日記を誰かが読んでいるとは知らずに、その言葉を読みます。こうした物語展開は元々意図していたものです。
 
──ふたりの恋物語を、水上の小学校を舞台に描いているところが面白いですね。実際にそうした学校があることを知って撮られたそうですが。
 
タラトーン:水上学校の先生は月曜から金曜まで子どもたちと寝食を共にし、親のように面倒をみます。だからあそこで教えることは、自分を犠牲にして、人のために一生懸命働かなければならない。そのことに大変感心しました。
 
──実在する先生にも取材されて、様々な挿話を取り入れたそうですが、死体が漂着するエピソードも実話でしょうか?
 
タラトーン:学校の上の方に大きなダムがあって、恐らく事故があって落ちてしまった。遺体が漂流してきて、水上学校の土台にはまり込んでしまったのです。ヘビが現れるのはしょっちゅうで、台風の場合、映画ほど巨大ではありませんが、屋根が落ちて補修費用の捻出に苦労したり、村人が修理に来てくれたことはあったそうです。
 
──エーン役のチャーマーン・ブンヤサックさんは、『ミウの歌~Love of Siam~』(07)が公開されているので、日本でもご存知の方が多いと思います。彼女のキャスティングはどのように決めたのでしょう?
 
タラトーン:脚本を半分ほど書いたとき、エーンはすごく真面目で自分らしさのある人がいいと思い、彼女のことが頭に浮かびました。チャーマーンさん自身も少し頑固なところがあります。目で表現できるところが彼女のいいところです。演技経験は豊富ですが先生役は初めてで、タイの観客にも彼女の新しい一面を見せることができました。
 
──ソーン役のスクリット・ウィセートケーオさんは、タイの人気歌手だと伺っています。
 
タラトーン:スクリットさんはスーパースターですが、主にテレビで活躍しているから、日本では知られていないと思います。今回が初めての映画出演で、彼の持つナチュラルさ、愛嬌のよさ、冗談好きでひたむきなところが熱心に教える先生のイメージにピッタリだと思い、キャスティングしました。
 
──『フェーンチャン ぼくの恋人』(03、共同監督)、『早春譜(Seasons Change)』(06)、“Dear Galileo”(09)と、すべて学生の話を撮っていますね。学校や学生時代に特別な思い入れがあるのでしょうか?
 
タラトーン:歳をとりたくないだけかもしれません(笑)。映画を撮る時はいつも、自分の好きなテーマで作ろうとします。『フェーンチャン』では過去の子ども時代の場面を共同監督し、『早春譜(Seasons Change)』では音楽学校で学ぶ高校生に興味を持ちました。タイの社会では、子どもの将来は家族の希望が強く反映されます。例えば、父親は子どもに医者になってほしい。でも別の分野の能力が高いとわかって、そこで葛藤が起きたりする。そうしたことを描きました。“Dear Galileo”は英国に留学していた時の経験をもとにしています。タイの子どももいつかは世界に出てみたいと願っています。海外に出ていろんな人と出会い、働き、遊びにいく過程で、夢と現実の違いに気付かされる。そんな自分の経験を映画にしようと思いました。
先生の日記

©2014 TIFF

 
──CROSSCUT ASIAでは、タイ映画特集の記念冊子を作り会場で無料配布しています。冊子の中に、現在のタイ映画の主流はノスタルジーにあるという指摘がありますが。
 
タラトーン:確かに『フェーンチャン』は、ノスタルジーから始まる話でした。大学時代の仲間の監督たちと子ども時代の出来事を思い出して、遊びや友情、当時のヒット曲を含めた要素で1980年代を再現しています。この作品のおかげでタイ映画にノスタルジー・ブームが起こりました。その後、映画だけではなく、懐メロや昔活躍していた歌手が歌うという現象が見られました。
 最近も過去を懐かしむ映画やドラマが増えていますが、そこにあるのは人生のサイクルです。人間はある程度歳をとると子ども時代の友だちに会いたくなるものです。そうした気持ちが、映画にも反映されているのだと思います。
 
 
取材/構成:赤塚成人(編集者)

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