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2014.10.28
[インタビュー]
「ウルポン監督は構図の美しさにこだわり、映像と編集のもつ力だけで、田園を語りました」公式インタビュー CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ 『稲の歌』

稲の歌

©2014 TIFF

「ウルポン監督は構図の美しさにこだわり、映像と編集のもつ力だけで、田園を語りました」――ピムパカー・トーウィラ(プロデューサー)
作品詳細
 
寡黙なものほど雄弁さが宿るといわれる。ウルポン・ラクササド監督の『稲の歌』は、そうした修辞がいかに適切なのかを教えてくれる一作だ。稲を耕す農民たちと周辺文化に見られる祭りの光景を写実的に切り取り、映画本来のもつ考古学的な魅力を湛えた作品に仕上がっているからだ。残念ながら来日を果たせなかった監督に代わり、本作のプロデューサーであり、タイ映画界のゴッドマザー的存在であるピムパカー・トーウィラさんが映画のことを語ってくれた。
 
 
――ピムパカーさんはインディーズ映画で監督デビューされ、その後タイで初めて商業映画を撮った女性監督として知られています。役者としては、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が撮った『ワールドリー・デザイアーズ』(05)に出演されていましたね。
 
ピムパカー・トーウィラ(以下、ピムパカー):最近では、ナワポン・タムロンラタナリット監督の『マリー・イズ・ハッピー』(13)に母親役で出演しています。別に出たがり屋ではありません。余興みたいなものです(笑)。
 
──監督、俳優のほかに、かつて山形国際ドキュメンタリー映画祭で審査員、バンコク映画祭ではプログラミング・ディレクターを務めています。それから、アピチャッポン監督の『世紀の光』(06)がタイ本国で検閲騒動に巻き込まれたとき、率先して支援を表明しました。フィクションからドキュメンタリーまで横断的に関わり、インディーズと商業映画の双方に太いパイプをもって活躍されているのがわかります。
 
ピムパカー:意識して活動領域を広げてきたわけではありません。ただ映画を観るのが好きで、映画作りに参加したくて、この業界に飛び込みました。最初にショートフィルムを撮り、そのなかのひとつに有名な怪談を実験映画風にアレンジした『メーナーク』(97)があります。この作品が成功して、長編の商業作品『ワン・ナイト・ハズバンド』(03)を監督することになりました。
 アピチャッポン監督は古い友人なので喜んで支援したいと思っただけです。私の場合、周囲との関わり方はいつもこんな感じです。映画祭のプログラミング・ディレクターを務めたときは、自分の映画体験を活かしたプログラムを組みました。意識して活動してきたというより、たまたまいいタイミングで仕事ができたのだと思います。私はインディーズと商業映画の両方の人と交流があるのでその結果、色々なことに関わることができました。
 
──プロデュースされた『稲の歌』のお話を伺います。この映画は稲作文化をめぐるドキュメンタリーですが、ナレーションもなく、描かれる人物の会話も最小限に切り詰められてあたかも映像詩を観ているような印象を抱きました。
 
ピムパカー:それこそ、ウルポン・ラクササド監督が意図したものです。これまで撮ったドキュメンタリーとは違う手法を試みたのです。つまり映像で語るということです。映像に力強さが出ているとしたら、ステディカムを用いて対象に肉迫しているからだと思います。
 
──稲穂を揺らす風、水田に降り注ぐ雨、賑やかなお祭りの風景、いずれもショットも素晴らしく、絵画的に画面が構成されていました。映しだされる農夫は、まるでドロシア・ラングなどの写真から抜け出てきたようであり、ミレーの絵画を彷彿させる光景も見られます。ウルポン監督は写真や絵画から多大な影響を受けているものと思われますが?
 
ピムパカー:ウルポンは学生時代から写真に興味があって、自分でも写真を撮りその美しさにこだわっています。田舎や地方の文化を写真で記録したいと思っているのです。そうした素養がいかされて絵のような構図が産み落とされたのではないかと思います。
稲の歌

©2014 TIFF

 
──祭りの場面では、主にシューゲイジングなギターサウンドが使われ実際の音楽は使われていません。ドキュメンタリーなのに生音を使わないのはある意味反則のような気もしますが、この音楽のおかげで画面に独特なトリップ感が醸し出されています。
 
ピムパカー:ウルポンが最初に編集したバージョンでは、各地の祭りで流れる音楽がたくさん入っていました。私はプロデューサーとして、これでは権利問題にひっかかってしまうと判断しました。すべての権利を買うと経費がかさんでしまう。それなら書き下ろしの曲を使った方が映画も面白くなるし、費用の負担も少なくてすむと考えました。デスクトップ・エラー(Desktop Error)という人気インディーズ・バンドのギタリストに作曲してもらいました。コンセプトを伝えるとき、田舎っぽい音も入れてほしいとお願いし、打楽器とギターのセッションになりました。
 
──後半、お婆さんが夜中に農作業しながら、「最愛の息子よ。なぜ帰ってこない」と歌う場面があります。あれは伝承歌ですか?
 
ピムパカー:私の知るかぎりあれは歌ではなく、念仏みたいなものです。失った息子が生まれ変わるという仏教的な語りで、地方コミュニティ特有の宗教儀式的な要素があります。
 
──クライマックスでは、大型のロケット花火が打上げられる場面が続きます。円形や直線型の手作り花火が空高く飛ばされ、もの凄い炎と噴煙に圧倒されます。あれらは何の行事なのですか?
 
ピムパカー:雨乞いのためのお布施祭りで、乾季に行われます。地域ごとに花火の形態はさまざまですが、東北地方では丸いロケット花火を飛ばします。どのグループが一番高く飛ばせるかを競うコンテストになっていて、高く飛ばした分、天に雨乞いできたとみなされます。
 
──最後に、ピムパカーさんご自身の今後の予定をお聞かせください。
 
ピムパカー:次の監督作としてフィクションを作っています。すでに撮影を終え、これから編集作業に入ります。来年には公開したいと願っています。
 
 
取材/構成:赤塚成人(編集者)

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