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2014.11.10
[イベントレポート]
「特殊メイクをしているときの私はかなり凶暴だったような気がします(笑)」アジアの未来『マンガ肉と僕』-10/26(日):Q&A

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©2014 TIFF

10/26(日)、アジアの未来『R-18文学賞vol.3 マンガ肉と僕』の上映後、杉野希妃監督のQ&Aが行われました。
作品詳細
 
 
Q:作品を会場でご覧になるのはどんなお気持ちですか?
 
杉野希妃監督(以下、監督):そうですね、自分としてはすごく色々なことを考えて、映画の中に詰め込んだつもりではあるのですが、それがどこまで表現できているかは自分ではよく分かっていなくて、消化できていないような状態です。
 
Q:先ほどキャストのお二人もおいでになりましたけど、スタッフもある意味かなりすごい方ですね。撮影は日本を代表する撮影監督の高間賢治さん。
 
監督:そうですね、大御所の方にまずカメラを回していただき、助監督も京都出身のベテランのクドウさんにやっていただいて、美術もベテランのタケウチさんにやっていただいたり、ベテランの方に支えていただけました。それから編集が、今回来日されてますけど、タイのリー・チャータメーティクンさん。
 
Q:タイの方、特にリーさんはどうして編集を?
 
監督:リーとは4、5年前からの友人でして、映画祭で何度もお会いしてたのですが、彼はアピチャッポンの『ブンミおじさんの森』だったりとか、商業映画もたくさんやってらっしゃる方で、作品によってテイストを変えて編集ができる編集さんなんです。彼に編集を頼んだらどうなるんだろうという興味もあって、やっていただきました。
 
Q:一昨日タイ映画のシンポジウムがあり、リーさんもそこにいらっしゃっていました。今まさに商業映画とアート映画と両方やっていらして、その使いわけをどうしているんですか、という質問に対して「商業映画の編集については観客の顔を思い浮かべてやる。アーティスティックな作品の場合は作家の顔を思い浮かべてやる。」ということをおっしゃっていましたけど、これはどっちだったのでしょう。
 
監督:これはどっちだったのでしょう(笑)
 
Q:特殊メイクで今回役作りに臨まれたと思うのですが、おそらく衣装を見ていると、夏の暑い時期だったのではないかと思いまして、苦労した点を教えてください。
 
監督:今回撮影が10日間半くらいでして、そのうちの半分くらいが自分が出演するシーン。4日くらいが特殊メイクをしなくてはいけなかったのです。1日3時間特殊メイクをして。朝の3時くらいに起きて、3時間特殊メイクして、6時にスタッフのみんなに会うという毎日だったので、睡眠時間も1-2時間くらいでした。そういうこともあって大変だったといえば大変だったのですが、特殊メイクをしたらこんなに性格が変わるのかというくらい。人間って自分が身につけているものだったり、その時の状況でこんなに変わるんだな、というのを撮影しながら実感しました。多分、特殊メイクをしているときの私はかなり凶暴だったような気がします(笑)
 
Q:映画で偶然良いものが映り込んでしまったり、逆に監督が意図している場合もあると思うのですが、今回の場合はどういった感じで撮られたのかお伺いしたいです。
 
監督:偶然としか言いようのないシーンもあって、たまにCGなんですか?と聞かれることがあるんですけども、そんなことはなく(笑)。たまたまサギがやってきて、別れていくところに飛び立つ、というところが撮れました。私は演じていたので、何が起こっているのかよく分からなかったのですけども、スタッフから「監督、すごいのが撮れましたよ!」と歓声が起きて。後で確認したら本当にすごいものが撮れていたので、そのまま使いました。これは、映画の神様が舞い降りてくれた瞬間だったと思いました。
 
Q:京都の有名な場所がロケ地に選ばれていたのですが、選んだ理由を教えていただければ。
 
監督:原作はまったく京都という設定ではなく、設定もものすごく変えています。どこなのか分からない、という設定でしたし。
何故京都を選んだかというのは、自分自身が京都という映画の土地に対してものすごく憧れがあったというのがあり、昔の30~60年や70年代くらいの作品を見ていると、京都の女性が自我を貫いてその後に破綻してしまうという物語が結構あります。この作品を京都で撮ることによって、その延長線上で日本の女性像を描けるのではないのか、ということでまず京都という土地を選びました。
ロケ地に関してはロケハンを3-4日かけて行ったときに全部選んだ場所です。助監督が京都出身の方だったので、いわゆる観光地ではない、地元の方が見ても違和感のない映画にしたいという気持ちがあったので、京都の良さを生かしつつ、より京都の方の生活に密着しているような場所を探してくださいということで、みんなで探した場所になりました。
kyotoelegy

©2014 TIFF

 
Q:京都というのは、かつては日本映画のもう一つの都だったのですけども、世界でも有数の撮影の許可が出るのが難しい地ですが、見事に京都でしたね。
 
監督:そうですね。いわゆるスタジオ撮影ではない、ロケということで探したので。
 
Q:杉野監督は活躍の場がかなりボーダレスだったりすると思うのですけども、例えば、『マジック&ロス』は香港の離れ島だし、今度の『欲動』はインドネシアですね。京都が舞台で、純和風というのは、杉野作品ではむしろ異色ですね。
 
監督:そうですよね。でも『歓待』という作品は日本の下町で撮った作品ではあるんですけど。やはり、2作目は完全にアジア映画という形で作ったのですけど、1発目はかなり純和風映画というか。ただ、純和風映画なんですけど、他の国の方が見たときにも共感ができるような作品にしたいなというのがありました。
 
Q:作品を作るときに、ご自分でこういう画をぐいぐい引っ張って作っているのか、それとも流れの中で作っているのか。どれくらい杉野監督がパワフルな方なのかなというのに、すごく興味をもちました。こんな方は日本にいないなぁ、と。
 
監督:画作りに関しては、どうしても「これは絶対にこう撮りたい!」っていうものに関しては、例えばラストシーンのところとかは、「こうこう、こういう風でこうじゃないとダメだ!」というのを初めから決めて撮っていました。やはり、撮影の高間さんがベテランの方で、本当にいい画を撮る方というのは分かっていることなので、高間さんには基本的に「このシーンはここだけは絶対必要なんですけども、どうしましょうか」とまず聞いて御相談させていただきながら撮影しました。だいたい1テイクで撮れるような形で作っていただいたので、感謝していますし、やりやすかったです。
 
Q:パワフルという話ですけど、この1月の間に2つの国際映画祭で2つの監督作をそれぞれワールド・プレミアで出されている。1年に2本監督するのはベテランでもそんなに今いないですよね。それにもうすぐ別の出演作が公開になりますよね。
それからさらに杉野さんはプロデューサーとして、ほぼ毎日東京国際映画祭でも歩き回っていらっしゃいますね。

 
監督:やっぱり、映画祭って人と出会う仕事なので、国際映画祭の期間中は出来る限りスケジュールを空けて、映画は絶対に15本以上は見ると思うんです。それで、気になった方がいらっしゃったら、自分から声をかけて、次の作品一緒にしませんかと言ったりはしてます。
 
Q:もっと若い世代の監督もプロデュースすることもやっていらっしゃいますね。
 
監督:そうですね。今年の夏に、自分の助監督をやっていた三澤君が監督デビュー(三澤拓哉監督 『三泊四日、五時の鐘』)しまして、茅ヶ崎で撮った映画で、映画祭もいくつか決まってるのですごく嬉しいです。
 
Q:確かに、こんな方はいらっしゃいませんよ。監督、女優、プロデューサーまでやられて。
 
監督:どうなんでしょうね(笑)頑張ります。
 
Q:この映画は3.11を巡るエピソード、会話、シークエンスがかなり出てきます。原作にはもちろんないし、物語上必ずしも必然性があるというわけでもないと思うのですが、こういったエピソードがなぜ盛り込まれたのかお聞きしたいです。
 
監督:ありがとうございます。この映画は、3人の女性が出てきて、3人をかなり差が出るようにキャラクターをつけておりまして、サトミが現代、菜子が過去、さやかは未来という感じでキャラクターを変えているんですね。それで、ある種3人の女性は、1人の人間から派生したものかもしれないと私は思っています。この映画のひとつ大事なテーマは「現代を描く」ということだったんですよ。それで、どういう風に連鎖しているのか、どういう風にひとがひとを規制しているのかっていうことを描きたかったので、例えば10年後、50年後、100年後にこの映画を見たときに「あ、あの時代にこういうことが起きたんだ」ということをどうしても入れたかったというのがあって。そこまで深くではないのですけど、ワタベの設定を福島から来た子という風にしてみました。現地の人間じゃないと遠く感じるかもしれないですが、意外に身近にそういう問題ってあると思うので、映画のなかで、背景として描いたというのがあります。
 
Q:未来に向けて杉野さんの野望や夢があったら、お聞かせ願いたいと思います。
 
監督:実は監督一作目がこの作品になるとは思ってはいなくて、本当だったら日本と韓国の合作映画で、2年前に釜山国際映画祭の企画マーケットに出している『忘却』という映画があるのですけど、それを一作目にしようと思って、準備をしていたところにお話があって、こっちが先になってしまったということなんです。脚本も書いてみたいという野望があって、その『忘却』という作品はどうしても、自分の話だったりもするので、どうにか自分で書きたいな、というのもあります。あと、今は色々な国と一緒に仕事をしたいというのがありまして、来年はチリの監督さんとか、ブルガリアの監督さんと多分お仕事をすることになると思うので。うーん、どうなることやら、という。とにかく、やりたいことが自分の中に色々溢れすぎていて。とにかく、一つ一つ丁寧に作っていけたらなと思います。あとミュージカル映画は絶対つくろうと思っています(笑)
 
Q:『忘却』ですけど、ルーツを探るという意味で、杉野さんの場合は日本と韓国とまたがる話を考えていると。
 
監督:そうですね。それは多分韓国がほとんど舞台になるのですが、言語と記憶を失った人間が辿り着いたときにどういう風になるのか、という人魚姫をモチーフにしたファンタジーなんですけれども。そういう話ができたら、と思います。
 
Q:楽しみに待ちたいと思います。では、最後に一言。
 
監督:タイトルが『マンガ肉と僕』なので、ものすごいコメディ映画なのかなと思われがちなのですけども、私としては、自分が今考えていることを、私なりに詰め込んだ作品になります。もし、気に入っていただけたら、周りの方にこういう作品があったよ、ということを伝えていただければと思います。今日は本当に朝早くからお越しいただきありがとうございました。

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