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2014.11.04
[インタビュー]
「記憶できる装置がたくさんある時代であると同時に、最も忘れやすい時代だと思ったのがアイディアのはじまりです」公式インタビュー CROSSCUT ASIA #01 『36のシーン』

36のシーン

©2014 TIFF

「記憶できる装置がたくさんある時代であると同時に、最も忘れやすい時代だと思ったのがアイディアのはじまりです」――ナワポン・タムロンラタナリット(プロデューサー/監督/脚本)
作品詳細
 
昨年のTIFFで上映された『マリー・イズ・ハッピー』でも話題を呼んだタイ映画界の新鋭、ナワポン・タムロンラタナリット。今年のTIFFには、2012年釜山国際映画祭でニューカレント賞を受賞した長編デビュー作をひっさげてやってきた。なんとワンシーンワンショットの36シーンからなる、ある男女の愛の記憶を描き出すというもの。その意欲的な作風とアイディアについて伺った。
 

――ワンシーンワンショットとは実験的です。今回の東京国際映画祭で上映されているタイ映画は娯楽性の高い劇映画が多いので、その中では異色ですね。
 
ナワポン・タムロンラタナリット監督(以下、ナワポン):この作品は1枚1枚写真を撮っていく方法で、それが36枚ワンロールのフィルムになっています。なぜかというと、例えば友人が撮った写真を見た時、その写真が記憶の中で動き出すのを感じたことはありませんか? 写真や静止画を見ることで、記憶の中で思い出が動き出すというコンセプトなんです。撮り方については映画のコンセプトによって毎回違います。例えば、『マリー・イズ・ハッピー』(13)は全く別の方法で描いています。今回のような手法は、大手の製作会社ではやらせてもらえない、インディーズだからこそできる手法。でも実験映画であっても観やすい映画にしたいと思っていました。インディーズ映画はアーティスティックで、観て分からない人は別に分からなくていいよというタイプの映画もありますが、私はそういう風にはしたくなかったんです。むしろ実験的なインディーズ映画を敬遠する人や普通の人にも楽しく観てもらいたい、若い人にも観てもらいたいと思って製作しました。
 
――この作品のアイディアの源はどこからきましたか。
 
ナワポン:僕は自分で映画を編集しているので、ハードディスク(HDD)がいっぱいになりHDDの山が部屋にあります。たまに、「突然このHDDすべてが無くなってしまったら」と心配になるんですよ。実際には今のところないんですけどね(笑)。でも撮った映像がどのHDDに入ってるかと思うことはしょっちゅうあるんです。そういった現代の人にありがちなシチュエーションを題材にしました。記憶できる装置がたくさんある時代であると同時に、最も忘れやすい時代だと思ったのがきっかけです。
 
――フィルムカメラの時代から写真などに興味がありましたか?
 
ナワポン:僕はアナログの絶滅期とデジカメの初期の間を経験していますから、映画を撮る前からフィルムでも写真を撮っていました。でもたくさん撮ると現像代がかかるので、そんなには撮れませんでした。1枚1枚、構図をじっくり考えてから撮るので、だからこそその時のシチュエーションを覚えていますよね。
 
――初めてデジカメを手にしたのは何年前ですか?
 
ナワポン:高校時代ですね。11年くらい前です。17~18歳くらいから映画を撮りたいと意識し始めたので、まずは写真を撮ることから始めました。デジタル一眼レフはまだなかったので、まずはコンパクトカメラを使い始め、学校のイベントなどを気ままに撮っていたんです。その時に気づいたのは、写真というのは必ずしもはっきり撮れていなくてもいいし、ブレているほうがキレイなことがあったりすることでした。
 
――写真もそうですが、人間関係もイージーになっている現代。こういうデジタル時代になってからタイの人も人間関係は変わってきましたか。
 
ナワポン:昔は知り合う人数も少ないけれども、互いを深く良く知っていたと思うのです。現代は広く浅く知り合っていると思います。会ったことのない人、知り合えるとは思わなかった予想外の人に出会うこともできるけれども、本当にその人の一部しか知らないという関係が生まれています。僕自身はどちらがいいとは言えないのですが、真ん中がいいなと思います。広く知り合えることはいいことだし、でも無理して拡大する必要はないし。適度の広さと適度な深さで知り合えたらいいなと思います。現代は世界中の知識に簡単にアクセスできます。その一方で情報量が多すぎるとも思うんです。何十万、何百万とあるので、どれを取捨選択するのかは自分によるのだと思います。
 
――本作のキャラクターの設定は映画業界の人ですね。これは監督の身近にいたからですか?
 
ナワポン:もしかしたらキャラクターは自分自身かもしれません。というのは、私自身ロケハンする時にブロックショット(ストックフォト)を撮りすぎて、何を撮ったか忘れているということがよくあってサーイと同じなんですよ(笑)。デジカメで写真を撮って、それを撮りだめをしておく職業は何かと考えた時に、ロケーションマネージャーかなあと思いました。それともうひとつ、バンコクから消えてしまった場所についても描きたいと思いました。この5、6年、古い建築物が壊されることが多くて、写真に撮っておかなければそれらはもともと存在しなかったことになってしまうと思いました。タイには歴史的な建造物を保存しようという動きがなく、保護する法もないんです。まず場所に興味がわき、場所に関係のある人、それからデジカメで写真を撮り記録する人という具合で、ロケーションマネージャーという設定にしました。
 
――てっきり監督自身がこういう失恋や、痛い思い出があるのかと思っていました(苦笑)。
 
ナワポン:監督をやっていると、そんなロマンティックなことを考えている暇がないのです。今日の撮影で雨が降ったらどうしようとかを考えることで精一杯(笑)。
 
 
取材/構成:よしひろまさみち(日本映画ペンクラブ)

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