左からハリー杉山さん、登り山智志監督、清水俊平監督、前野朋哉さん、ウエダアツシ監督
10/26(日)、第27回東京国際映画祭・提携企画「第4回日本学生映画祭」のシンポジウムが、TOHOシネマズ日本橋で開催されました。第26回東京学生映画祭実写部門グランプリ受賞作『ふざけるんじゃねえよ』の清水俊平監督、第8回TOHOシネマズ学生映画祭ショートフィルム部門グランプリ受賞作『ぼっち』の登り山智志監督、東京国際映画祭スタッフの経験を持ち、監督デビュー作『リュウグウノツカイ』が11月8日より大阪・京都・渋谷で順次拡大上映が決定しているウエダアツシ監督、監督作が2回学生映画祭にノミネートした経験を持つ俳優・監督の前野朋哉さん、そして東京国際映画祭フェスティバル・ナビゲーターのハリー杉山さんが登壇。「映画制作の魅力と裏側」と題したトークショーを行いました。
ウエダ監督は登り山監督作『ぼっち』について「いまの高校生の問題を取り上げている作品。その背景にあるのは若い子たちの人間関係の希薄さ、あやうさ。ボタンを掛け違えると友情も簡単に崩れてしまうことがちゃんと描かれている、好感が持てる評価されるべき作品。」と感想を述べると、登り山監督は「もっとけなされるかと思っていたのでほめていただいて素直に嬉しい。」と笑顔で反応。
登り山智志監督
清水監督作『ふざけるんじゃねえよ』については「全体的に一貫して世界を作っている。アイデンティティの問題を描いていて、繰り返しの出口のない主人公の日常の憤り、せつなさ、やるせなさが感じられて非常に面白かった。」と感想を述べた。
ウエダアツシ監督
ウエダ監督が「どんな映画でも面白いと思う事は必ずある。基本的に観た映画は好きにならないともったいない。」と自身の観点について話すと、イギリス在住経験を持つハリー杉山さんは「イギリスだと『こんな作品は公開すべきじゃない』『こんなものにお金を出しているスポンサーは馬鹿じゃないか』など、結構厳しくズバズバいう批評家の人たちがいるので。もしかすると海外と日本の文化の差とかもあるかもしれないですね。」とコメント。
ハリー杉山さん
前野朋哉さんは、「今回、集まった6作品中、子供目線の作品が3本あったというのが非常に興味深い。映画を撮るときは、自分の経験してきたことからひねり出すことが多いと思うので。」と受賞作全体に対しての共通点に着眼した。
前野朋哉さん
学生時代の映画への関わり方について前野さんは、「学生時代が一番映画を撮っていた。映像学科にいたので、常に撮らなきゃという思いに駆られ焦っていた。『映画を撮りたくない!』とイライラしているときもストレス解消で映画を観に行く、という映画から逃れられないスパイラルに入っていた。映画づくしの環境だった。」と当時を振り返った。ウエダ監督から前野さん自らが監督作に出演していることに対して尋ねられると「ほかの人に出てほしいんだけれど、『この人だ!』と思う人がなかなか見つからなくて。『前野君やったらいいよ』とスタッフに言われ『まじか…俺、監督・脚本・主演でやっていいんだ…』とビビリながら思いながらやったのがきかっけ。でもそれがなければ今、役者をやってなかったわけですよね。」と役者になったきっかけを披露。
社会人経験を経て現在は藝術大学院生である清水監督は「社会に出た経験はすごくいかせている。スーツで満員電車、を経験してなかったらきっと描けなかったこともある」と感慨深い表情を浮かべた。
清水俊平監督
ウエダ監督は「普通の大学で映画部に入っていたので撮ってはいたが、映画の勉強というものをしていない。プロの現場で短編を撮らせてもらった時に、現場で何もできないと痛感して、それから企画・ネタを作りつつ、映画の現場にかかわってきた。映画を撮れるようになるためにいろんな場所に身を置いてきました。」と語った。
初監督作『リュウグウノツカイ』の製作現場については「スタッフは6人、撮影期間は7日。無茶苦茶大変でしたけど、6人でも作れる。スタッフが一人何役もやって。勇気になるんじゃないかな、と思います。」と学生たちにアドバイスをすると、前野さんは「長編で6人って、なかなか苦労。よくあることではないと思います。」と笑いながら言葉を添えた。
ウエダ監督は「難しいけれど、撮った後いかに観てもらうかも重要になると思う。誰かにまずみせないと始まらないので、今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出した。そこで北海道知事賞を受賞した後、新宿の劇場から興味があると声をかけていただいて。自主配給なので自分たちでポスター、チラシ、ホームページ、公開へのプロモーション、できることは何でもやりました。タダでできるプロモーションとして、いまはネットが重要かも。初日舞台挨拶の時に、メインカットと同じようにリュウグウノツカイを持って登壇。観客の方の撮影をOKにし、『プロモーション費がないので、よかったと思ったら皆さんで拡散してください!』と伝えた。それがなんとなく拡がっていったのかなと実感があります。」と、2014年の夏に公開し11月から全国順次公開が決まっている『リュウグウノツカイ』の例を挙げた。
ハリー杉山さんが「でも、どんどん公開作があるし、ネットに上がってもすぐ別の作品のニュースで1週間もたつとすぐ埋もれていきますよね。」とネットのタイミングの難しさについて質問すると「企画段階から、プロモーションも意識しながら考えていくかも必要かも。女子高生が制服を着てリュウグウノツカイという長い魚を持つ、というメインビジュアルは脚本書く前から決めていた。東京国際映画祭でいうと200本以上の作品を上映する中でパンフレットに載るのはタイトル、1枚のスチルと2・3行の解説。『これなんだろ』とまず思ってもらうことが大事だと思う。」と答えると、ハリー杉山さんが「昨日、来日中のイギリス人のロックバンドをやっている友人に、これから『リュウグウノツカイ』っていう作品を観なきゃいけないんだよねと話したら、友人がそのビジュアルを知っていた。“女子高生”という制服を着た日本独特の女の子たち自体が独特で興味があるし、さらになんでデカい魚を持っているんだ!と覚えていたのかな。そういう意味ではチラシや予告編がとても重要になりますよね。」思わぬエピソードに会場からは驚きの声が上がった。
「次の仕事を取りに行く方法は?」とハリー杉山さんが質問すると、前野さんは「たまたま俳優仲間4人と飲んでたら知り合いの監督がいて。次の週の監督のドラマに3人呼ばれました。多分、まずは僕はこういう人です、と知ってもらうことが重要じゃないかな。」
ウエダ監督は「監督って才能はあると思いますが、あとは人との出会い。監督業ってプロデューサーが誰と組みたいかという話でもあるので、アピールポイントをどんどん磨いていって、準備をしておくことが大事なのかなと」と、学生監督2人にアドバイスを送った。