10/28(火)、アジアの未来『R-18文学賞 vol.3 マンガ肉と僕』の杉野希妃監督の舞台挨拶が上映前に、Q&Aが上映後に行われました。
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杉野希妃監督(以下、監督):おはようございます。皆さん今日は朝から上映にお越しくださいまして、ありがとうございます。この映画は、私が昨年沖縄国際映画祭でニュークリエーターズファクトリーのクリエーター賞と女優賞をいただいたことがきっかけで、お話があり、短編小説を映画化した作品です。タイトルがコメディのように見えるタイトルなんですけれども、私なりにいろいろ考えて詰め込んだ作品ですので、楽しんで見ていただければと思います。今日はありがとうございます。
司会:石坂PD:一つご報告を皆さんにもしておきたいのですが、釜山の映画祭で、杉野さん監督作はこの作品1本だけではなく、ほぼ同時にもう1本『欲動 Taksu』という作品、こちらもつい先日終わりました釜山国際映画祭でワールド・プレミア上映でして、見事に新人監督賞を受賞されてお帰りになったところです。2本ほぼ同時に世界にお披露目という事ですけれども、どちらが第1作、第2作ということになりますか?
監督:『マンガ肉と僕』が初監督作品で、去年(2013年)の9月に京都で撮った作品なんですね。2作目の『欲動』の方がバリ島で今年(2014年)の4月に撮った作品なので、時期としては半年以上離れているのですけれども、完成がほぼ同時になってしまったという感じですね。
司会:石坂PD:日本での公開は『欲動』の方が先になる。
監督:そうです。来月11月の22日から公開されます。
司会:石坂PD:ぜひ皆さんそちらの方で杉野監督作品2本目のご覧いただければと思います。今日のと合わせてという事で。これから皆さんご覧になるので、あまり多くは語れないと思うのですが、京都が舞台なんですね?
監督:そうですね、原作は2~30ページの短いお話なのですけれども、それを映画化するにあたって、設定をかなり変えているところが多くて。原作では全く京都という事ではないんですよ。私がこの物語を読んだときに、女性とは何なのかとか、男性とは何なのかとか、ありのままってなんなんだろうと考えたときに、昔の40年代か60年代くらいの日本映画と通じる部分があるんじゃないかということで、京都で撮ったらより面白くなるんじゃないかと勝手に考えて、京都で撮らせて下さいと無理やりお願いをして、京都にしました。
司会:石坂PD:それから、英語タイトルの方が”Kyoto Elegy”。例えば溝口健二に『浪華悲歌』という名作がありますが、なんか意識されたのですか?
監督:突っ込まれるとすごく痛い感じになってしまうのですけど、『浪華悲歌』の英語タイトルが”OSAKA ELEGY”で、すごく溝口健二監督の作品が好きで、彼が描いた女性像というのが、今でもやっぱり新しいという風に感じるんです。この物語を読んだ時も、なぜか溝口健二監督の作品がパッと思い浮かんでしまって、邦題が『マンガ肉と僕』ですけれども、これをこのまま英語題にしてしまうと、”Manga-meat and I”とちょっと変だなと思って。”Kyoto Elegy”にさせてくださいということで、”Kyoto Elegy”にしました。
司会:石坂PD:実は英語タイトルの方に隠し味が?
監督:そうですね、ハイ。
司会:石坂PD:はい、というわけでそろそろ上映の方に移りたいと思いますけれども、上映前のお客様に一言いただいて締めたいと思います。
監督:後でQ&Aがあるので、みなさんの率直なご感想をいただきたいと思います。楽しんでみてください。よろしくお願いいたします。
上映後、Q&Aが行われました。
監督:皆さんどう思われたのでしょうか。初監督作がまず東京国際映画祭で上映していただいて本当に嬉しく思うと同時に、今日この作品を選んでくださって本当にありがとうございます。率直なご感想を伺いたいです。
司会:石坂PD::キャスティングはどういうふうに考えて決められたんでしょうか。
監督:そうですね。あの脚本を書いている段階から、この役はこの人しかいない、というような、もともと原作があるので当て書きとは言わないかもしれないのですけど、この人にやってもらったらいいなという方にほとんどやっていただけました。サトミに関してはどうしてもそのサトミの自虐性だったりにすごく私は強く惹かれて、これは自分自身でどうしてもやりたいと思いました。初め20キロくらい本当に太ろうかと思ったんですよ。本気で考えてたんですけど、やっぱその撮影期間10日間くらいしかとれなくて、その間に太ったり痩せたりというは、20キロはさすがに難しいというのと、20キロ太ったところで、あんまりそんな外見的には変わらないんじゃないかというご指摘があり、残念ながら特殊メイクをすることになりました。本当に三浦君も徳永えりさんもちすんさんも、私が本当に仕事をしてみたかった方々で、脚本を書いている段階からやっていただけたらな、と思いながら書いていたのですごく嬉しかったです。
司会:石坂PD::ロケ地ですけども、京都という地は世界遺産でもありますし、撮影の許可を取るのが世界でも非常に難しいよく言われています。観光地に限らず、いろんな場所が出てきますが、その辺の見極めはどうされましたか。
監督:助監督が京都出身の方で、その方がいなかったらこの作品は成立しなかったというくらい京都で撮影をするということはとても難しいことです。セットではなくて全部ロケーションで、という形でやったのですけれども、これはいわゆる、観光地ではない、地元のそこに住んでいる方々が観ても「あっ、普段ここ行くよね」という場所で撮影をしたいと思いました。私が気に入った場所と、助監督さん(クドウさん)が「ここ良いじゃないですか」と言ったところをちょっと組み合わせつつ、カメラマンの高間さんの意見も聞きながら、相談して皆で一緒に決めた場所が出ています。
司会:石坂PD:スタッフの高間さんの名前が出ましたけれども、凄い方が加わっていますよね。
監督:そうですね。大御所の方にやっていただいて。高間さんも本当に大大大ベテランの方ですし、美術の方も色々な作品をされている方ですし、なんといっても編集をタイのリー・チャータメーティクンという、今回この映画祭のCROSSCUT ASIA『コンクリートの雲』の監督でもあり、タイでは編集者としてとても有名な方で、アピチャッポン監督のブンミおじさん(『ブンミおじさんの森』)や、アート作品から商業作品までやっていらっしゃる方に、4、5年前から友達だったので「監督する時はやってよ!」とお願いしてたんです。
司会:石坂PD:京都という純和風なのかと思いきや、スタッフの中にはタイの方が混じっているという。
監督:そうですね。音楽もアメリカでやったりとか。いろいろしました。
Q:内容を知らずにこのタイトルだけ『マンガ肉と僕』というので、すごく「マンガ肉」が気になったのですが、特に映画の中では「マンガ肉」であることが説明されていなかったように思います。なぜ彼女は「マンガ肉」をそんなに食べていたのかなど教えていただけたらと思います。
監督:ありがとうございます。彼女が何で男に嫌われるために太ろうとしたのか、「マンガ肉」を食べ続けているのかというのはちゃんと説明はしていないのですけども、義理の父親に性的虐待を何度も受けていて、ということがきっかけでそういう風になってしまったというのがあります。私としては、そこにとてもこの映画のテーマがあると思っていて、だから原作に惹かれたのだと思います。男に嫌われるために太って、誰かに寄生して、寄生された方がまた誰かに寄生していく。そういう食物連鎖、寄生というものの食物連鎖みたいなものをこの映画で表現できたら面白いのではないかと思い、構成もそういうふうな構成にしています。「マンガ肉」というのは、現代日本の歪みみたいなもの、塊なのかなと私は勝手に思って、それを象徴するような道具として一応出しています。最終的に「マンガ肉」のレシートが返ってくるというところで、サイクルがなされているというような感じにしてみました。
司会:石坂PD:通訳の方と先ほどお話をしていて「『マンガ肉』を英語で訳すのは難しい」という話をしていたのですが、いくつか辞書を見たら載っている辞書もありますね。
監督:「マンガ肉」がですか?!
司会:石坂PD:周りでもその言葉を知っている人と全然知らない人とではっきり分かれるということが分かりました。
監督:ギャートルズ世代の方はみんな知っているのではないですか。
司会:石坂PD:マンモスの肉みたいなイメージですね。
監督:そうです。京都映画祭で試写をやった時に『マンガ肉と僕』と言えなくて「マンガ、肉と僕」って4、5回くらい言われてしまって。知らないんだなぁ、と。普及させてください、みなさん。
Q:オープニングタイトルですが、それに市川崑監督の影響をすごく感じました。自らの監督の文字に一文字赤字を入れた理由を教えてください。
監督:そうですね。京都の景色の上にオープニングが3分くらい続くのですけれども、そこに載せるべきクレジットをどういうふうに入れようか、というので、これは本当に私の好みというか、崑さんみたいな感じでどうか、と提案して、デザイナーさんと相談しながら決めました。私の名前に一文字赤文字が入っているのは、デザイナーさんのアイディアで、初めピンクを入れられたのですけど、ピンクはちょっと合わないんじゃないか、と。私は赤が一番好きなので「赤だったら良いのではないですか」と言ったら、赤にされて。なんかいいなと思ったのでそのまま使ってしまいました。
Q:関西弁がすごくうまかったのですが、監督は関西出身ですか?
監督:私は広島出身です。広島弁バリバリの広島っこです。関西弁に特殊メイクに監督にって何重苦なのかってくらい大変なことに挑戦しているなと自分でも思っています。京都出身の女優さん2人に全部台詞を録音してもらって、二人のものを何度も聞きながらやって。助監督が京都の出身だったので、ちょっとダメだしされたりしつつ、修正しながら頑張りました。違和感があったら申し訳ないです。
Q:主人公が自分を、男性にとって魅力的でないように見えるために、体重を増やしたということでした。それに比べて彼女は、お風呂に入る事も拒否して、異臭をはなっているということで、それは映画で表現するのは難しいと思うのですが、意図的に組み込んだのでしょうか?
監督:そうですね、原作でもものすごく異臭をはなっているという設定になっているのですけども、映像でどうやって表現しようかなと。彼女の生活を見せていけば、自然とそういうのは出てくるのではないかと思っていました。皆さん臭さを感じられましたでしょうか?
Q:脚本の構成がよくできているなという印象がありましたが、どれくらいを原作の短編に忠実に、またどれくらい脚本の段階で付け加えたのでしょうか。
監督:原作ではベースは同じなんです。義理の父に性的虐待を受けた人間が、ワタベに寄生して、そして別れてまた再会する、という風にはなっています。脚色した部分ですが、例えばワタベが法学部だったり、というのは原作では表現されていません。さやかは原作では名前だけ出てきて登場しないという風になっています。菜子とさやかは原作では全然メインではないのですけども、なぜ私がそこを膨らませたかというと、色々な女性を出したいと思ったのです。一人一人の女性を現在、過去、未来とキャラクターづけて表現したらより面白くなるのではないかと思いました。サトミが現代で菜子が過去、さやかが未来、という風に分けて、3部構成になっています。音楽の方も楽器を分けて、サトミは笛、菜子は琴、さやかはピアノというように表現して、それぞれの抱えている葛藤をあぶり出せたらいいなと思って、そのような構成にしました。
Q:監督ご自身は女優でありながら、他の俳優さんたちを演出するというのはどのような感じでしたか。
監督:多分皆さんには相当迷惑をかけていると思います。私の意地がありまして、「よーい」と「カット」は自分で言いたいというのがすごくあって。それは絶対に監督の仕事だと思っていたので。サトミをやっているときに、「よーい、はい」を言って、演技をしたあとで「カット!」と言って。三浦くんは隣に座っていて、その中で演技をするというのは相当大変だったのではないかと思います。自分の演技に今まで満足したことがないのに、OKを言わなくちゃいけないのが、やっぱり難しかったですね。もっとやりたいのだけど、時間もないからOKしなくちゃ、OK、という渋々なところが結構あって。今まで自分が演技をするときは「監督がOK言うからいいんだ!」という言い訳ができていたのですけど、両方やると言い訳が全然できないのだなと実感しています。
Q:『メイド・イン・チャイナ』を見まして、キム・ドンフ監督がはっきり杉野監督をライバルだとおっしゃっていました。昨年はお二方のプロデュース作品を見せていただいて、今年は監督作を見せていただいて、両方とも面白かったのでとても満足です。お二方にはこれからも面白い作品を作っていただきたいです。
それと、茅ヶ崎の現場ではお世話になりました。
監督:ありがとうございます。茅ヶ崎というのは、私の助監督や、短編映画のプロデューサーをしていた三澤君というアシスタントがいるのです。私の大好きなアシスタントなのですけど、彼が夏に、監督デビュー(三澤拓哉監督『三泊四日、五時の鐘』)をしまして、私が初めてエグゼクティブ・プロデューサーをしていた作品がありました。完成がもうちょっとなんですけど、映画祭もいくつか決まってきたので嬉しいです。
司会:石坂PD:『メイド・イン・チャイナ』のキム・ドンフ監督とはご縁があって、今日二人とも監督デビューでここに揃っているという感じなんですね?
監督:みなさん、是非『メイド・イン・チャイナ』の方も見ていただきたいのですけど、9年前に私がキム・ギドク監督の『絶対の愛』という作品に出演したときに、彼が助監督だったのです。去年、お互いの作品がコンペディションに出て、プロデューサーとしてライバルで、今回は監督という立場でライバルなので。一昨日も2時くらいまで話し合いながら、感慨深いなと思いました(笑)
司会:石坂PD:キムさんだけでなくて、エドモンド・ヨウ監督(『破裂するドリアンの河の記憶』監督)とも色々ご縁がありますよね
監督:今回コンペに、マレーシア映画として初めて出る作品『破裂するドリアンの河の記憶』。これも素晴らしい作品なので是非見ていただきたいです。
Q:この映画は女性と男性とどちらが見ても楽しめると思うのですが、それぞれ男性と女性にどういったところを見ていただきたいのかということと、公開の予定はどのようになっているのかというのをお聞きしたいです。
監督:いつも映画を作るときに、観客の方にこういうところを見てほしいとか、この作品はこうだと主張するようなことを私はしたくないです。皆さんに見ていただいて、駄作だな、と思ったら駄作と思っていただき、色んな意見があっていいと思うので、ここを見てほしいというのは特にないのですけども。誤解を解きたいのが、R-18文学賞というのがありまして、その候補作の5つくらいの中からこの作品を選んだところ、たまたまこの作品が受賞作になったということなんです。R-18というタイトルがついているので結構エロティックな映画なのかなと思う方もいるかもしれないですが、R-18文学賞自体が去年から、エロティックなものだけれはなく、女性のための女性による小説だったら何でもいいという風に変わったので、この原作も、そんなにエロティックなシーンがあるわけではないということをお伝えしておきます。公開は来年(2015年)の夏前くらいになると思いますが、まだ日にちの方は決まっていません。もし気に入っていただけたなら、公開の際は宣伝をよろしくお願いします。また、監督2作目の『欲動』という映画が、来月の11月22日から新宿武蔵野館で公開されるので、是非見ていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。