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2014.10.29
[インタビュー]
「今では文字も言葉も廃れてしまったユグル族に、深く哀惜の念を感じました」公式インタビュー コンペティション 『遥かなる家』

遥かなる家

©2014 TIFF

「今では文字も言葉も廃れてしまったユグル族に、深く哀惜の念を感じました」――リー・ルイジン(監督/脚本/プロデューサー/編集)、ファン・リー(エグゼクティブ・プロデューサー)
作品詳細
 
中国北西部の草原を舞台に、ラクダに乗って父を探す兄弟の姿を追った『遥かなる家』。コンペティションで上映された本作は、壮大な大自然と少年たちの思いや不安が融合し、いつしか滅びゆく少数民族の文化への哀惜を浮き彫りにしていく。そのリアルな描写と、時にファンタスティックな映像を織り込んだ見事な手法をくり出すリー・ルイジン監督と、プロデューサーのファン・リー氏に、撮影の裏話などを聞きました。
 
 
――滅びゆく文化や少数民族への哀惜は、監督の永遠のテーマですか?
 
リー・ルイジン監督(以下、リー):私は人として命あるものに対する関心があり、同時に空間の変化を痛感しています。そして、その思いを映画で表現することで、観客とともにその思いを分かち合いたいとつねに思っています。
 
――ユグル族の兄弟を主人公にした理由は?
 
リー:故郷の隣りにユグル族の住む村があり、彼らが身近な存在でした。そして、旧世紀には王国を持つほど強大な民族だったのに、今では文字も言葉も廃れてしまったことに深く哀惜の念を感じました。社会が発展する代償として、そういう伝統的な文化を失うのはおかしいと思っているのです。
 
――喧嘩をしながら旅をする兄弟の姿がリアルですが、監督自身の体験ですか?
 
リー:僕にも兄がいますから、幼い頃を思い出して(笑)。それに演じた少年たちは、映画に描かれたような生活を実際にしているのです。学校が始まっているのに、まだ草原をウロチョロしていて登校できないとか、よくあることなのです。撮影のためにラクダを借りようとしたモンゴル族の人に「こういう内容の映画を撮るんだ」と話したら、「それは俺のことじゃないか」と言われたこともあります。夏休みが始まったのに父親が迎えに来なくて、5日間も砂漠で父親を捜したと言っていました。
 
――プロデューサーとしていちばん苦労したのは何ですか?
 
ファン・リー(以下、ファン):やはり砂漠です。実際に少数民族がその地からいなくなるくらいに過酷な状況ですから。そこに私たちが入って撮影をしなければいけない。おまけに時間も限られているし、気候の変化も激しいし、ラクダを撮るのも、それは、それは大変なのです。
 
――兄弟はラクダの扱いが上手でしたが?
 
リー:彼らに限らず、スタッフも1度や2度はラクダに蹴られています(笑)。子供たちには毎日ラクダに餌をあげさせて、なんとか仲良くなるようにさせましたが。
 
――旅のエピソードの描写がとてもリアルなので「ひょっとしたらシノプシスだけで後は即興で撮った?」とも思いましたが?
 
リー:違います(笑)。実はすべて完璧。ストーリーも6万字の台本を書き、カメラワークも撮影の時にはカメラマンとコミュニケーションが必要ないくらいに、出演者の表情までも全部細かく書いてありました。もちろんロケハンもしっかりやって。まぁ、それでもアクシデントは起こるもので、ロケハンの時には存在していた廃墟がなくなっていたなんていうこともありました。幸い、工事中で予定の道が通れなくなり、回り道をしたおかげでほかの廃墟を見つけました。兄弟がラマ僧に出会う寺院も、ユグル族が毎日お参りに行く本物です。古い北魏時代の寺院で、ある王族の皇帝が祀られているのですが、不思議なことにその王朝にユグル族は滅ぼされているのです。
 
――どのくらいの撮影日数と製作費をかけたら、このように重厚で雄大な作品ができるのでしょうか?
 
ファン:驚くほどに少ない予算です。300万人民元。日本円でいったら5000万円くらいでしょうか。普通だったらその予算でこの規模の作品は撮れません。ということは、いかにスタッフたちの英雄的な貢献が高かったかということです。
 
――出演者はほとんど素人ですよね?
 
リー:弟にラクダの預かり料を払わせる男を演じたのは、私の父です。年老いたラマ僧は父の叔父で、若い僧はいとこです。
 
ファン:そして、子供たちのお母さんは、監督の奥さんです(笑)。
遥かなる家

©2014 TIFF

 
――リアリズムを追求した映像のなかに、一瞬にして砂漠が緑の草原に変化したりする映像が織り込まれファンタスティックな味わいもありますが。
 
リー:意図的にそうしました。やはりシルクロード自体が「西遊記」をはじめとする神秘的な話がたくさん生まれてきた場所ですから。この映画でもそういう神秘的な要素を入れたかったのです。
 
――TIFFへ参加してくださった感想は?
 
リー:コンペティションの15本になかにノミネートされたことが、すでに映画が認められたということだと思っています。もし賞をいただけたら、大きなプレゼントということで喜んでお受けしますけれど。
 
ファン:実はこの作品は、カンヌ映画祭をはじめ多くの映画祭から出品を誘われたのですが、私は2010年にTIFFに参加(『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』)してからこの映画祭が好きになったので、今回、監督にも「東京に出そう」と誘いました。やはり中国のシルクロードの文化や歴史は、日本の方に分かってもらえると思っていますから。多くの人々に観て欲しいですね。
 
 
取材/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)

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