10/28(火)、コンペティション『ザ・レッスン/授業の代償』の上映後、ペタル・ヴァルチャノフ監督と女優のマルギタ・ゴシェヴァさんのQ&Aが行われました。
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ペタル・ヴァルチャノフ監督(以下、監督):皆さん、本日はお越しいただきましてありがとうございます。このようにご招待いただきまして大変光栄でございます。そしてたくさんの方々にこの作品を見ていただいて大変うれしく思っております。ありがとうございます。
マルギタ・ゴシェヴァさん(以下、ゴシェヴァさん):皆さん、こんばんは。今回このように日本に来るのは初めてのことで、東京に来るのも初めてで、この映画祭に参加するのも初めてとなりますので、ご招待いただけたこと大変嬉しく思っております。この作品というのはかなり予算の限られた制作だったので、ここに至るまでは大変長い道のりでした。ですので、このように皆さんの前でこのようにお話ができることが大変驚きです。皆さんありがとうございました。
司会:矢田部PD:ありがとうございます。この物語のきっかけになったのが、ニュースや新聞記事で実際にこういう事件が起きたことから思いつかれたという風にお伺いしたのですが、その経緯をご説明いただけますでしょうか。
監督:4~5年前だったと思うんですけれども、もう一人の監督、クリスティナ・クロゼヴァが、新聞の中の見出しで先生が銀行強盗をしたというのを発見いたしまして、それを見てこの映画を作ろうと思いつきました。教師が銀行強盗をする、という何か相反することが起きているのを見て、ものすごくイメージがひらめき、制作にあたったのですが、あくまでもフィクションです。そしてもう一つ、この話を聞いた5分後くらいに、この人に主演女優をやってもらおうというイメージが浮かびまして、隣にいるマルギタさんに演じてもらいました。ありがとう。
司会:矢田部PD:そのときマルギタさんは、銀行強盗をする先生の役と聞いて、どのように思われましたか。
ゴシェヴァさん:大変面白い偶然ですけれども、ちょうど私が実際の銀行強盗をした女性のインタビューをテレビで見まして、それでしばらく後にこの役柄のオファーをいただいたので大変嬉しく思いました。そしてテレビを見ていて、彼女の内側を探求していくというのはすごいチャレンジになるな、という風に考えました。というのも、彼女のテレビのインタビューを見ていると、何かマスクを被っているような印象を受けて、そしてその裏側にものすごくその決断に至るまでの興味深さ、面白いものがあるに違いないという風に考えたわけです。これはあくまでもフィクションで、実在の彼女については彼女の髪の色ですとか、前髪のカットぐらいしか活用していなかったです。この作品の監督たち(クリスティナ・グロゼヴァ監督、ペタル・ヴァルチャノフ監督)とは以前にテレビシリーズで一緒にお仕事をさせていただいたことがあって、そのとき何か通じ合うものがあって、もう一度このように、長編でご一緒させていただける機会をいただけたので大変嬉しく思っておりますし、私自身、映画の中で初主演という役なので、嬉しく思っております。ありがとうございます。
Q:ありがとうございます。とても面白く拝見させていただきました。実際の事件の女性をもとにつくったということで、どの程度事実をもとにどうやってキャラクターを創造したり、肉付けしたかというのを監督にお聞きしたいです。また、女優さん、主演の方は、そのキャラクターをもとにどうやってアプローチというか、近づけたのかというのをお聞きしたいです。
監督:この中で事実として反映されているのは、先生が銀行強盗をしたというところだけです。それ以外の、例えば生徒との関係性とかっていうところは、私自身の子どものときの経験をもとにしています。私が子どもの頃、生徒の一人がお金を盗んで先生が調査をして、そして一生懸命盗んだ人を探そうとしていたんですけれども、嘘をついて刺激したりっていうこともしていたのを思い出しました。かなり個人的なことを反映していて、たとえば母の写真がありますが、あれは実際の私の母親で2010年に亡くなってしまったのですけれども大変素晴らしい女優で、この作品の中でも写真だけですが大きな役割を演じています。私たちが一番インスピレーションを受けたのが、先生が銀行を襲ったというところですけれど、どうしたら一般的な普通の人が犯罪者になってしまうのだろうか、ということを色々と考えていて、そして考えながらこの脚本を作っています。最初の方はわりと順調だったのですけれども、ブルガリアのナショナル・フィルム・センターの方から資金のサポートをもらえなかったので制作をどうしようかな、と。銀行でも襲ってお金を盗んで撮影をしようかな、と考えたり、あるいはやっぱり友人と一緒につくろうかなと考えたり。結果的に正しい選択ができていれば良かったなと思います。
ゴシェヴァさん:実はこれが3回目のインタビューになるので、これまで話してなかったことをできるだけお話しようと思って考えたんですけれども、今回この役柄につきましては、その瞬間だけできるだけ彼女そのものになりたいと思って挑みました。つまり、彼女がたどった一つ一つのステップ、足取りというものをできるだけ誠実にたどりたいと、そして彼女がたどった旅路というものを私もたどりたいという風に考えました。そして一番難しかったのが、やはり強盗をするという決断をしたその瞬間ですね。どうしても想像ができなかったんです。その結果、どういう代償が伴うのかっていうを彼女も絶対分かっていたはずなんだけれども、それを分かった上でああいう判断をする、ということがなかなか想像できませんでした。もしかしたら本当に一般の人たちは何か奇跡的なことが起きて、見つからないんじゃないかという風に思うのかもしれないですが、そんなことはなく、彼女はやはり2ヵ月後に逮捕されます。ブルガリアの警察が捕まえるのに2ヶ月かかったっていうことなんですね。実際に強盗をしたときに、彼女はちょっと奇抜な格好をしていて、ピンクのスカーフを巻いて、白のサングラスをつけいたらしいのですけれども、撮影に入る前に相談をしていて、そのままでやる必要はないよね、と。私たちクリエイターだから、彼女の旅路がどういうものだったのかということを想像して作ればいいよね、ということで制作していきました。
Q:自分の尊厳を守るために銃をとったと、強盗をする方を選んだと私は解釈しました。それがすごく格好良いと思いました。
ゴシェヴァさん:ありがとう。でも彼女は犯罪者になっちゃったのでね。
Q:教師が副業を持たれているというのが意外でした。それがブルガリアでは一般的なのかどうかという疑問と、お2人それぞれにお金に関してどのようなお考えをお持ちなのかお聞きしたいです。
監督:ブルガリアでは、複数の仕事を持つことはわりと一般的です。ただ、教師ですとか医者が複数の仕事を持っていることは大変問題で、どちらも大変難しい仕事なので両立するのが難しいという問題があります。そしてお金についてですけれども、世界的に見ても金融危機とかありますが、特にブルガリアでは共産主義が崩壊した後、どちらかというと文化的な危機にあるんじゃないかと思っています。
ゴシェヴァさん:事実として、ブルガリアでは先生方というのは大変貧しいです。そしてお医者さんも貧しい。貧しいからということなのでしょうか、十分な尊敬を得ていないという実情があります。そして今21世紀なのにもかかわらず、世界各地で内乱が起こっていたりということも続いていますし、国によっては教師は貧しかったり、あるいは人の命にかかわる仕事をしている医者でさえも貧しかったりするという実情があります。ですので、私たちはその実情に対してできるだけ誠実に伝えたいと思いました。そして私も今日一緒に上映を見ていましたけれども、ちょっと距離があるのかなと感じました。おそらく私たちはすごく違う世界に住んでいるんだと思います。東京に来て、道端にゴミ箱がないのに道はすごくきれいだなと感じたりとか、本当に世界が違うんだなっていう風に感じました。
監督:そう言いつつも、このストーリーの中にはやはり普遍的なものというのもありまして、普遍的な要素としては、例えばこういったことというのは誰にでも起こり得ることだと思います。本当に普通の一般、小市民が、と言ったら変ですけど、普通の人たちがシステムから圧力をかけられて追い詰められて、正しい選択をするチャンスがないような状況に陥ってしまう。彼女はそれを受け入れずに、すごく切実なんだけれども行動に出る。
ゴシェヴァさん:だからと言って、彼女は被害者ではないんですね。彼女は自分で重大な決断というものをしているので、被害者ではない。でもそれが結果、罪になってしまう。なので、その選択をするということは、面白いとか興味深いとは思いますが、場合によっては危険な選択になってしまうと思います。
Q:監督さんがお二人いらして、この映画ではこのお二人はどういう役割分担をされたのでしょうか。
監督:私達2人はカップルですけれども、実際この作品には3人で取り組んでおりまして、2人の娘も深く関わっております。娘もプロセスの一環に関わっていて、たとえば撮影のときにセットに連れてきて、クリスティナが撮影しているときに、私が娘の面倒をみたり、逆をしたり、というようなことをやりました。そして私が編集作業をしているときも娘が手伝ってくれて、機械を壊してくれたりもしたのですけれども。今3歳半ですが、いまだに俳優さんのことですとか、マルギタのこともよく覚えています。クリスティナ・クロゼヴァというもう一人の監督ですが、彼女とは10年以上前から一緒に仕事をしていて、学生の頃から一緒に仕事をしています。彼女と一緒に仕事をすることで、自信もついてきましたし、よりクリエイティブになったと思っています。2人で責任をとっているから、ということかもしれないんですが、結構勇敢な決断ができたりもしています。役割ですが、クリスティナの方が俳優さんとのやりとり中心に仕事をしてもらって、私が編集を主にやったり、ということもありましたし、あとは撮影監督とのやりとりも主に私がやっていました。このように2人で組むことによって、常に新鮮な視点というのが得られて、客観的に見ることができて良かったと思います。マルギタさんがこの作品の中では核になる存在なので、私たちはあまり手を加えずに、彼女にお任せをしました。