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2014.10.30
[イベントレポート]
「時代の幕開けとその直前にあたる頃のことを本作に描いています。」ワールド・フォーカス『昔のはじまり』-10/24(金)舞台挨拶+Q&A

 
10/24(木)、ワールド・フォーカス『昔のはじまり』の上映に際し、俳優のジョエル・サラチョさんが登壇、舞台挨拶・Q&Aが行われました。
作品詳細
 
093W0070
 
石坂PD:皆様、ご来場いただき誠にありがとうございます。東京国際映画祭ワールドフォーカス部門フィリピン作品の『昔のはじまり』。こちら、今回の映画祭の中で最も長い作品になります。
俳優で、映画の中では神父さんを演じていらっしゃるジョエル・サラチョさんがお越しになっていますので、ご紹介いたします。

 
ジョエル・サラチョさん(以下、サラチョさん):みなさん、こんにちは。今回は、この上映に来てくださってありがとうございます。ラヴ・ディアス監督が次作のプリプロダクションに入っておりまして、参加できなかったことをお詫び申し上げます。作品については、特に申し上げることはなくて、観ていただければ感じていただけると思います。大変長い作品ですので、皆さんお食事などもご用意されてご覧いただければと思います。ご覧いただきますと、監督が何を伝えようとしていたのか、フィリピンのことを感じていただけるのではないかと思います。ぜひ、お楽しみいただければと思います。
 
石坂PD:ありがとうございました。大変長い作品なんですけれども、監督のご意向もありまして、休憩はいれないかたちで上映します。監督が「いや、俺の映画は10分くらい見なくたって平気でしょ」とおっしゃっているのですが(笑)。
最後までごゆっくりご覧ください。

 
 
<Q&A>
 
石坂PD:まずは皆さんお疲れ様でございました。こうした長い映画を鑑賞するというのも映画祭ならではの楽しみではないかと思います。今回は5時間38分を一気に上映いたしました。それではゲストをお迎えしたいと思います。神父役で出演されている俳優のジョエル・サラチョさんです。まずは一言ご挨拶をお願いします。
 
ジョエル・サラチョさん(以下、サラチョさん):皆さん、この5時間半にわたる長い作品を最後まで鑑賞いただいて本当にありがとうございます。フィリピンの映画ファンも、ここまで長い作品を見るということには慣れていません。東京国際映画祭にこうして暖かく迎えていただき、最後まで映画を上映していただいたことに本当に私は感激しています。
 
Q:出演された俳優さんという立場から本作について、また本作が描いている時代についてお話しいただきたいと思います。
 
サラチョさん:実は私はラヴ・ディアス監督と仕事させてもらうのは今回が初めてでした。これまでに私が行ってきたテレビや映画の撮影とは全く異なる仕事でした。この映画で描かれている1970年代はフィリピンの歴史上でも最も暗黒時代とされる時代及び、それに突入する直前に当たります。1972年に戒厳令が敷かれることで暗い日々が始まるわけですが、この作品で描かれているのはラヴ・ディアス監督や私の実際の知人のことです。映画に描かれているように、人々を分断し、また人々に恐怖心を植えつけていたというのが当時のフィリピンでした。そしてそれを解決するために戒厳令を施行し、共和国を打ち立てていくというのが当時のマルコス政権の言い分であったわけですが、フィリピンの歴史を多少たりともご存知の方には明白なように、その言い分はまったくのでたらめでした。そして今日ご覧いただいた作中の時代というのは、言語道断な人権の侵害がまかり通り、何千人という人が殺害され消された時代でした。そしてバリオ(村のような地方自治の単位、公式ガイドでもbarrioを村と訳している)全体が軍の存在のために全員が強制的に避難(追い出された)させられました。それ以来フィリピンは衰退の一途を辿るわけですが、特にマルコス政権の後半は経済的にも大きな損失を生んだ時代でした。一方で、当時はフィリピン国内で歴史上最もレジスタンスの機運が高まったことは、大変興味深い事実です。1970年代の中盤から独裁政権が終焉する1986年までの間は、レジスタンスにとって金字塔を打ち立てたといってもよい期間でした。そしてラヴ・ディアス監督はこうした時代の幕開けとその直前にあたる頃のことを本作に描いています。おそらく監督はこうした作品の続きも考えているのではないかと思います。
fromwhatisbefore

©2014 TIFF

 
Q:ラヴ・ディアス監督の作品に出演するということは、フィリピンの俳優にとって特別なことなのでしょうか。
 
サラチョさん:おっしゃる通り、ラヴ・ディアス監督と仕事をするということはとても特別な体験です。現在フィリピンで俳優をしている人間は全員、一度はラヴ・ディアス監督と仕事をしてみるべきだと私は思います。例えばラヴ・ディアス監督はよく長回しで撮影を行うのですが、その中においては俳優は自分の役の感情や人柄といったものを自分の中で消化して、演技の中で表現する必要が出てきます。こういった機会は俳優にとってなかなか与えられる贅沢ではありません。
 
Q:神父という役は、特に後半に入って重要な役柄になっていきますが、どういった心境で演じられたのでしょうか。
 
サラチョさん:ラヴ・ディアス監督の手法の1つの側面として挙げられることは、私たち俳優は最初から完成された脚本を与えられるわけではなく、撮影をしていく中で役柄や人柄が変わっていくというやり方になるのです。私が多く出演する後半のシーンのほとんどは、実は撮影の中では前半に撮られたものでした。私は戒厳令が敷かれた後の時代を、学生としてまた活動家として過ごしていました。その頃にレジスタンスに加わっていた多くの神父や修道女といった人たちと接した当時の頃を思い出しながら、神父という役の役作りをしていきました。
 
Q:ラヴ・ディアス監督というのは、こんな作品を撮る映画監督は世界でも他にいないというくらいスペシャルな映画監督だと思います。今日は監督自身がいらっしゃらないので、監督の素顔というか、ここでしか話せないようなシークレットな部分があれば聞かせてください。
 
サラチョさん:ラヴ・ディアス監督はとてもクールな方で、決して声を荒らげたりするようなことはありません。彼は1980年代をジャーナリストとして過ごしているため、当時の経験が現在の映画作りに反映されているように思うところがあります。それは例えば映画にドキュメンタリータッチが含まれている点もそうです。そしてまた、今回は自然が大いに協力してくれました。撮影期間は常に暗雲が垂れ込め、雨も多く降ったことで、消防車などの協力を得ずに撮影をすることができました。そうした運にも恵まれていたといえます。
 
Q:『昔のはじまり』というタイトルはどういった意味があるのでしょうか。
 
サラチョさん:タイトルの “What Is” という現在にあたる部分が戒厳令施行以降のマルコス独裁政権を示しています。タイトル全体としては戒厳令以前のフィリピンの民主主義の死というものを表現しています。
 
Q:ラヴ・ディアス監督の作品というのは神話的な部分と政治的な部分というのが合わさることで作品の骨格をなしていて、非常に壮大な印象を受けます。今回の作品は風とか波とか、見た目だけでなく音でも自然の強さを非常に感じました。特に雨の音が強くなる場面などがありましたが、日本も貧しい時代は木造建築が多くて、木の下で雨をしのいでいたときの様子がとても思い起こされる、神話的な一方で親しみを感じる作品でした。ああした雨の音の大小といった現象は自然に起こったことなのか、演出上の工夫がなされているのか、聞かせていただけると嬉しいです。
 
サラチョさん:技術的なことについてはあまり知らないというのが正直なところです。撮影時にはキャストやスタッフを含めて20人程度しかいなかったので、雨の音をクリアに録音することは難しいことではありませんでした。また先ほども申し上げた通り、自然が大変協力してくれたので、撮影時には作中のような印象的な雨が多く降りました。そのため雨の大小も同録で捉えることができました。幸いフィリピンは普段から雨の多い国ですので、ああした雨のシーンを撮ることについては苦労しませんでした。
 
Q:2人の姉妹の女優さんについてなのですが、フィリピン国内での知名度や共演時の印象があれば聞かせてください。
 
サラチョさん:本作に出ている俳優というのは私も含めて、あまりフィリピンでは知られているわけではありません。2人についてもスターと呼べるわけではなく、他の出演者の多くも舞台俳優として活動しています。本作においては各出演者がラヴ・ディアス監督に自分自身を委ね、監督が自分たちの感情を引き出してくれるという信頼の元で仕事をしていました。
 
Q:ラヴ・ディアス監督の作品を見るたびに魂を吸い取られ、一方で元気になるという体験をします。世界の中にはこうした偉大な作品を撮る監督がいるということ、今年もラヴ・ディアス体験ができたことを大変嬉しく思いました。
 
サラチョさん:今回皆さんからいただいた暖かいコメントは必ずラヴ・ディアス監督に届けたいと思います。本当にありがとうございました。

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