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2014.06.04
[インタビュー]
連載企画第11回:【映画祭の重鎮が語る、リアルな映画祭史!】-震災と政治の荒波を越えて(2011年~2012年)

東京国際映画祭事務局 作品チーム・アドバイザー 森岡道夫さんロングインタビュー
 
第11回 震災と政治の荒波を越えて(第24回2011年~第25回2012年TIFF)
 
「信じよう。映画の力」のスローガンのもと、東日本大震災の年に開催された第24回東京国際映画祭
 
———第24回は2011年開催です。この年は東日本大震災が起きて、日本は未曾有の国難に見舞われました。
森岡道夫(以下、森岡):私が着任して初めて、もうこれほどたいへんな年はありませんでした。震災の影響で日本中が自粛モードとなり、中止になった行事もたくさんありました。しかし苦難に満ちた年だからこそ、映画祭を開いて日本を盛り上げたいと、局内一丸となって取り組むことになりました。協賛・後援の諸団体も同意見でした。3月下旬に予定されていた前年度グランプリ作、『僕の心の奥の文法』の特別上映会は取りやめにしましたが、10月の第24回開催は速やかに決断されました。
連載企画

開催にあたり、復興支援「TIFF ARIGATOプロジェクト」を実施
©2011 TIFF

 
———原発事故があったことから、海外ゲストや審査委員の招聘には苦労されたのではありませんか?
森岡:本人は参加したくても、家族やマネージャーたちが震災直後の訪日はリスクが大きすぎるとブレーキをかけてきます。程よい返事をもらっても、後でひっくり返されることがしばしばありました。
残念だったのは、ユアン・マクレガー(俳優)が審査委員に内定し、本人も来日を望んでいたのに、周囲から不安の声が挙がって止むなくキャンセルになったことです。審査委員長がエドワード・R・プレスマン(プロデューサー)に決まったのも、かなりぎりぎりのタイミングでした。
 
———プレスマンは第4回(1991)で、ヤングシネマ部門の審査委員長を務めていましたね。
森岡:『地獄の逃避行』(1973)でテレンス・マリック監督を、『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)でブライアン・デ・パルマ監督を売り出した辣腕で、若い映画作家の発掘と育成に力を注いでいた方です。近年でも『バッド・ルーテナント』(2009)、『ウォール・ストリート』(2010)などを手がけています。実は、プレスマンも東京と福島の距離を気にかけていたけれど、最後は気持ちよく引き受けてくれました(笑)。
 
———最終的に審査委員に就任したのは、キース・カサンダー(プロデューサー)、ファン・ビンビン〔范冰冰〕(女優)、小林政広(監督/『愛の予感』で前年のロカルノ映画祭金豹賞)、レイコ・クルック(特殊メーキャップ・アーティスト/『愛と哀しみのボレロ』『吸血鬼ノスフェラトゥ』)の4名でした。
森岡:カサンダーは第5回(1992)で、ヤングシネマの審査委員長を務めてくれた方です。ピーター・グリーナウェイ作品のプロデュースで有名です。方々に声をかけて断られるなかで、カサンダーは「主催者が安全を保証するのだから」と、平然と引き受けてくれた。うれしかったですね。
ファン・ビンビンは前回『ブッダ・マウンテン』(中国)が上映され、見事、主演女優賞を受賞しました。その時は新作の撮影中で来日できなかったけれど、今回は審査委員として晴れの姿を見せてくれました。ファンさんも原発には一言も触れずに快く引き受けてくれました。
連載企画

第24回TIFFコンペティション部門審査委員
左からレイコ・クルックさん、キース・カサンダーさん、エドワード・R・プレスマンさん、ファン・ビンビンさん、小林政広監督
©2011 TIFF

 
———初参加・初来日が多い主要部門の作品招聘においても、多大な労力を費やされたのではありませんか?
森岡:その通りで、震災と原発のダブル・パンチは、作品の招致活動にも大きなダメージを与えました。作品を高く評価して出品を強く希望したのに、断られるケースが何件かありました。またいつもなら監督や出演者、プロデューサーが上映の前後に登壇しますが、この時ばかりは来日に二の足を踏む出品者がいたのも事実です。
 
———そうしたなか、コンペ部門では、かつて映画祭に参加した監督たちが元気な姿を見せてくれました。『トリシュナ』(イギリス)のマイケル・ウィンターボトム、『ヘッドショット』(タイ)のペンエーグ・ラッタナルアーン、『夢遊 スリープウォーカー』(香港=中国)のオキサイド・パンが、上映に併せて来日してくれましたね。
森岡:ウィンターボトムは第13回(2000)のコンペ審査委員。ラッタナルアーンは第15回(2002)で『わすれな歌』が「アジアの風」で上映されましたが、翌年コンペ審査委員を務めてくれました。パンの作品は第14回(2001)で『レイン』(特別招待作品)、第16回(2003)で『the EYE』(「アジアの風」)がそれぞれ上映されています。
面白いのは、3人ともコンペ部門出品は今回が初めてだったことです。ラッタナルアーンとパンは主演俳優を連れて来日し、華やかに会場を盛り上げてくれました。『トリシュナ』の上映では、監督のファンが熱心な質問をしていましたね。音楽担当の梅林茂さんが来場され、ウィンターボトムと旧交を温めていました。
連載企画
 
———グランプリは、エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュが監督した『最強のふたり』(フランス)が獲得しました。
森岡:貧しい黒人の青年と障害のある大富豪の心温まる友情物語で、本音とユーモアに満ちた展開が審査委員に評価されました。「ふたり」を演じたフランソワ・クリュゼとオマール・シーのコンビが良くて、最優秀男優賞もこのふたりが攫っていきました(笑)。
 
———『キツツキと雨』が審査員特別賞を受賞しました。
森岡:堅物の木こりと映画撮影隊の交流を描いた、間合いの楽しい映画でした。沖田修一監督は1977年生まれの34歳。長編3作目での国際映画祭受賞は快挙と言えるでしょう。第25回TIFFでも『横道世之介』が特別招待作品に選ばれています。石井裕也監督と並んで、いま最も有望な若手といっていいでしょう。
 
———観客賞に選ばれたのは、『ガザを飛ぶブタ』(フランス=ベルギー)でした。
森岡:『迷子の警察音楽隊』(第20回グランプリ)でお馴染みのサッソン・ガーベイさんが主演した作品でした。イスラエル人のガーベイさんがパレスチナ人を演じていて、深刻な問題をユーモアに包んだ愛すべき映画でした。個人的には、これがグランプリでもよかったと思いましたが、残念でした(笑)。シルヴァン・エスティバル監督と女優のミリアム・テカイアさんが来日して、観客と感動を分かち合ってくれました。
連載企画

仲睦まじいところを見せてくれたご夫婦でもあるお二人、ミリアム・テカイアさん(左)とシルヴァン・エスティバル監督(右)
©2011 TIFF

 
———「アジアの風」では〈アジア中東パノラマ〉のほか、〈フィリピン最前線〜シネマラヤの熱い風〉〈女優=プロデューサー杉野希妃〜アジア・インディーズのミューズ〉〈ディスカバー亜州電影〜アジア映画史アラカルト〉といったユニークな特集が組まれました。
森岡:最優秀アジア映画賞は、特集企画〈フィリピン最前線〉で上映された『クリスマス・イブ』が受賞しました。これはフィリピン・インディーズの祭典シネマラヤで、グランプリを獲得した作品です。ジェフリー・ジェトゥリアン監督は過去に「アジアの風」部門で『もう一度』(第18回)、『クブラドール』(第19回)が上映されたベテランですが、商業的な映画づくりに限界を感じて本作を自主製作したそうです。
 
———そういえば、市川準監督の『Buy a suit スーツを買う』(第21回)や緒方明監督の『友だちと歩こう』(第26回)など、日本でも同じ志で作られた作品が近年出品されています。
森岡:もしかしたら、ベテランや中堅の監督がこだわりの企画を自分たちのお金で映画にする流れが、国を越えて出来つつあるのかもしれませんね。自分たちでお金を出し合い協力して作品を作って観てもらう。そんな原点回帰的な動きから、映画会社には作れない、伸び伸びした個性の作品が生まれてくるのを期待しています。
 
———そうした意味でも、女優の杉野希妃さんは大いに注目すべき存在です。
森岡:杉野さんが製作・主演した『歓待』は、前回「日本映画・ある視点」部門作品賞を受賞し、その後、世界中の映画祭から招待を受けました。今回はこの『歓待』と、『大阪のうさぎたち』(イム・テヒョン〔林泰亨〕監督)、『マジック&ロス』(リム・カーワイ監督)などボーダーレスな製作体制で作られた映画を上映しました。自身の監督・主演作や海外との合作など、たくさんの企画を抱えているそうで、今後の活躍がますます楽しみです。
連載企画

2014年3/30に開催した特別上映会にもご参加いただいた杉野希妃さん
©2011 TIFF

 
———「日本映画・ある視点」では、杉田協士監督『ひとつの歌』、廣原暁監督『返事はいらない』、山崎樹一郎監督『ひかりのおと』など、映画祭初参加となる若い監督の作品に恵まれました。
森岡:今回は、1970~80年代生まれの監督が多く選出されていましたね。杉田監督は助監督経験者、廣原監督は学生映画出身、山崎監督は岡山で農業を営みながらの映画制作と、それぞれのスタンスにも違いがあって注目しました。
 
———作品賞を受賞したのは、女子高生の青春像を長回しで描いた『ももいろそらを』です。
森岡:これはテレビ番組のディレクターやミュージックビデオで経験を積んだ小林啓一監督(1972年生まれ)の初長編作です。自身で脚本・撮影も手がけていて、モノクロ画面に役者の息づかいをうまく切り取った作品でした。海外でも共感を集め、スペインのヒホン国際映画祭で受賞を重ねましたね。
 
———「WORLD CINEMA」では『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(TIFFタイトル『クレイジー・ホース』)が上映され、ドキュメンタリー映画の大御所フレデリック・ワイズマン監督が来日されました。
森岡:パリの老舗ナイトクラブを撮るという、若々しい題材の選び方には共感しますね(笑)。ワイズマンは1930年生まれだから、この時81歳でした。ゴダールやイーストウッドと同い年という高齢ですが、同時期にユーロスペースで開催されたレトロスペクティブにも参加され、エネルギッシュな姿を見せていました。
 
———ヴェンダースやヘルツォークなど人気監督が作ったドキュメンタリーも、注目を集めました。
森岡:今回は、「WORLD CINEMA」で『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』『メカス×ゲリン往復書簡』、「特別招待作品」で『コーマン帝国』(アレックス・ステイプルトン監督)、『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース監督)、「natural TIFF」で『ハッピー・ピープル タイガで暮らす一年』(ヴェルナー・ヘルツォーク、ドミトリー・ワシュコフ共同監督)と、部門を越えて最新ドキュメンタリーを紹介できたことは大きな収穫でした。
 
———長年、日本映画の海外紹介に尽力してきたカトリーヌ・カドゥー監督の『黒澤、その道』も特別上映されました。
森岡:カドゥーさんは黒澤明監督がカンヌに行く時は、必ず通訳として同行していたフランス人です。これは私淑した巨匠を偲ぶ作品で、スコセッシ、ベルトルッチ、イーストウッド、宮崎駿らが黒澤監督の演出ぶりを語っています。残念なことに引用された作品の権利問題があって、日本ではこの時に上映されただけですが、いずれクリアされて観られるようになるといいですね。
カドゥーさんはTIFFで通訳をされたこともあり、在りし日の黒澤明や相米慎二と一緒に撮った写真が残っています。
 
———「特別招待作品」では、『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』と『1911』の2本がオープニング作に選ばれ、開幕初日を華やかに飾りました。
森岡:苦労だらけの大会でしたが、フタを開ければ、ミラ・ジョボヴィッチ、ジャッキー・チェン、ヴィム・ヴェンダースらがグリーンカーペットに来てくれて、大いに盛り上がりました。ジャッキーとは偶然エレベーターで一緒になったけれど、「ハロー・エヴリバディ」と言って、一人一人に握手していました。大変愛嬌のある方でしたね(笑)。
 
———依田チェアマンは4年目のこの年、「信じよう。映画の力」を提唱しました。また復興に貢献すべく「TIFF AROGATO プロジェクト」を設立し、被災地域での映画上映に取り組む「シネマエール東北」への寄付を目的とした「TIFF ARIGATO募金」を呼びかけました。 
森岡:震災のことがやはり念頭にあって、困難な状況で映画は何をできるのかと考えたのが、「信じよう。映画の力」という言葉に集約されたのではないかと思います。プロジェクトでは、カンヌや上海の国際映画祭で日本へのメッセージを集め、仙台で映画上映会を開きました。
ハルのふえ』の上映では声優の戸田恵子さんと野沢雅子さん、『ステキな金縛り』の上映では三谷幸喜監督、西田敏行さんが駆けつけてくれて、会場は笑顔に包まれました。
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『ハルのふえ』上映会の様子(上)
『ステキな金縛り』上映会の様子(下)
©2011 TIFF

 
———学生割引チケットの発売、学生応援団、若手俳優陣からなるTIFFボーイズの結成が試みられました。
森岡:広報チームのスタッフがアイデアを出して、ボランティアの大学生たちと一緒にできる映画祭のアピール方法を思いつきました。献身的な学生が多数参加してくれたし、彼らの笑顔は、震災で暗い雰囲気になりがちだった映画祭に、明るいパワーをもたらしてくれました(笑)。
当日券を購入する学生を対象にワン・コインでチケット販売するなど、チャレンジ精神に満ちた試みが功を奏したのか、例年より学生さんの姿が目につくようになりました。
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当時配布した学生当日券500円を告知したチラシ
©2011 TIFF

 
 
依田チェアマン最後の任期となった第25回目の映画祭は、コンペ作品など過去最高の応募作品が集まった
 
———第25回は2012年開催です。この年は尖閣諸島問題が起き、映画祭も政治の荒波に吞まれました。
森岡:東京国際映画祭は最初の頃からアジア映画を応援してきて、どんな政治体制であれ差別せず、優秀な個性を持つ人材と作品を支援してきました。しかし、ひとたび政治問題が起きれば、映画祭で独自に解決するのは容易ではありません。この時も政治不介入という映画祭の原則をご理解頂けるよう尽力しましたが、中国や韓国、台湾といった近隣諸国の映画人も相応の立場があります。やむなく来日を控えるかたちとなりました。
 
———久しぶりに参加予定だった、イム・ホー監督の『浮城』(「アジアの風」)が上映中止になったのは残念でした。
森岡:先方が出品取りやめを決断した以上は従うほかありません。
コンペの『風水』(ワン・ジン監督・中国)も上映中止になるのではと取り沙汰されましたが、これは事前に交わした同意書に基づいて予定どおりに上映できました。
 
———そのコンペ作品ですが、過去最高の91の国と地域から1,332本の応募がありましたね。
森岡:第11回(1998)が45の国と地域から513本の応募でしたから、15年間で倍増したことになります。震災や政治の困難な状況下で、映画祭に注目してくださる作り手が増えたのは本当に有り難いことです。
 
———シビアな見方をすれば、それだけ手軽に映画を作れる環境が整ったとも言えますが。
森岡:見方を変えれば、確かにその通りですね。技術革新が多くの若者に門戸を開いたのは歓迎すべきですが、一方で、本当のプロはどこにもいなくなってしまった。選ぶ方も忍耐強く作品と付き合って、監督の将来性に思いを馳せなければいけません。
 
———今回の「コンペ」部門では、先ほどお話の出た『風水』、エリザ・フクサス監督『ニーナ ローマの夏休み』(TIFFタイトル『ニーナ』・イタリア)、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『ハンナ・アーレント』(ドイツ)など、15本の作品が上映されました。
森岡:『風水』は急激な経済発展の影で、取り残される母親を描いた作品でした。事務局でも評判がよく、作品賞や主演女優賞の有力候補という声も聞かれました。無冠に終わったのは残念ですが、それ以上に騒動で映画の反響がかき消されてしまったのは悲しいことでした。こうした事態が起きないためにも、政治に左右されない、映画人同士の連帯を深めていきたいものです。
 
———かつてジャン・ルノワールは、「私は特定の国家に属する人間というよりは、映画という国家の一市民である。だから国家や国境を越えて、人間同士が結ばれる可能性を描こうとした」と語っていましたね。
森岡:さすが『大いなる幻影』や『河』の監督だけあって、いいことを言います。まさに、そこに映画の可能性はあるはずです。
 
———今回のグランプリ作も、そうした可能性を感じさせる一本でした。ロレーヌ・レヴィ監督の『もうひとりの息子』(フランス)です。
森岡:子どもの取り違えというプロットは、是枝裕和監督の『そして父になる』と同じですが、イスラエルとパレスチナの家族の物語に仕上げたところに、フランス人らしい知性を感じます。しだいに子ども同士の友情が芽生えるところも、希望があっていいですね。レヴィ監督は長編3作目の本作で、見事、監督賞にも輝きました。『最強のふたり』に続いてフランス映画が栄冠に輝くことになりました。
 
———上映会場で一際、大きな熱気に包まれたのは、松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ 3D』でした。
森岡:記憶が薄れていく演奏家GOMAさんの「今」をクローズ・アップするために3Dにしたと聞き、若い人ならではのセンスと温もりを感じました。ディジュリドゥーという楽器は初めて知りましたが、確かに3Dにふさわしい。野太い音が劇場内を震撼させて、未知の映像体験に観客も酔い痴れていました。大金をかけなくてもアイデアがあれば、いい映画を作ることができる。観客賞受賞も納得です。
連載企画

上映後の興奮でQ&Aも大いに盛り上がった『フラッシュバックメモリーズ 3D』
©2012 TIFF

 
———「アジアの風」では、〈中東パノラマ〉〈インドネシア・エクスプレス〉〈ディスカバー亜州電影〉といった特集が組まれました。
森岡:〈中東パノラマ〉は、芸術肌のスタイリッシュな作品から笑いと涙の大衆作まで、バラエティに富んだプログラムでしたね。最優秀アジア映画賞がレイス・チェリッキ監督の『沈黙の夜』(トルコ)、スペシャル・メンションに、チャン・ヤン〔張楊〕監督『グォさんの仮装大賞』(TIFFタイトル『老人ホームを飛び出して』・中国)、ジュン・ロブレス・ラナ監督『ブワカウ』(フィリピン)の2作品と、審査員の方々も個性を見極めて賞を振り分けているのが印象的でした。
〈インドネシア・エクスプレス〉には、旺盛に映画を撮り続けるガリン・ヌグロホ、エドウィン、リリ・リザの新旧の作品が上映されました。〈ディスカバー亜州電影〉では、戦火のカンボジアを逃れてカナダで保管されていたホラー映画、『怪奇ヘビ男』『天女伝説プー・チュク・ソー』などを上映しました。
 
———「日本映画・ある視点」は、ある種の狂信とニヒリズムを越えようとする、刺激的な作品が注目されました。
森岡:若い監督が日本を取り巻く現状を描こうとすると、こうしたシビアな題材に突き当たるのかもしれません。『愛のゆくえ(仮)』(木村文洋監督)、『あかぼし』(吉野竜平監督)が赤裸々な痛みを提示するのに対し、土屋豊監督の『タリウム少女の毒殺日記』は主人公の女子高生がクールで、どこか本音をかわそうとするところに現代性を感じさせます。
 
———受賞は『タリウム少女の毒殺日記』に決まりました。
森岡:ひとつ裏話をすれば、これは上映会場でQ&Aの最中に、監督が封切り公開の際はタイトルを変えたいと言い出して、観客に挙手させてこのタイトルに変更しました。TIFF公開時のタイトルは、『GFP BUNNY タリウム少女のプログラム』でした。
土屋監督は映画を撮り続けるのが大変で、本作の完成に7年もかかったそうですね。そうした現状を踏まえて受賞後、本作はクラウドファンディングを用いて、映画の配給宣伝費を募りました。受賞効果もあって、200万円の資金を調達できたことはほんとによかったですね。
土屋監督と深田晃司監督が主催する「独立映画鍋」では、インディーズ映画のための資金調達の試みを継続してやっているので、どうしても映画が作りたい方はサイトを覗いてみるといいでしょう。
参考リンク「独立映画鍋」
 
———「WORLD CINEMA」では、イタリアの鬼才マルコ・ベロッキオの『眠れる美女』から、若き異才ハーモニー・コリンの『スプリング・ブレイカーズ』まで、才気走った作品が集まりました。
森岡:カルロス・レイガダスの『闇のあとの光』(TIFFタイトル『闇の後の光』)、マッテオ・ガローネの『リアリティー』は、この年のカンヌでそれぞれ監督賞と作品賞を受賞した作品です。レイガダスは矢田部PD一推しの監督で、2014年5月にロードショー公開が決まってよかったですね。
 
———「特別招待作品」では、『マリー・アントワネットに別れをつげて』のブノワ・ジャコ監督、レア・セドゥが来日しました。
森岡:プロモーションを兼ねた来日でしたが、お二人ともちゃんと映画祭の会場で挨拶してくれました。レア・セドゥさんはフランスの老舗映画会社パテの令嬢ですが、最近のアメリカの若い女優さんと同じように、日本のファッションや食べ物が大好きだそうですね。来日中は、古着屋やはなまるうどんにも通ったとのことでした(笑)。
連載企画

レア・セドゥさん(左)、ブノワ・ジャコ監督(右)
©2012 TIFF

 
———最後に、依田チェアマンが今大会で5年の任期を終えて、退任されました。
森岡:依田チェアマンは、映画祭に、大変ユニークな功績を残しました。ひとつは、エコロジーというテーマを掲げ、社会的役割を担わせたことです。グリーンカーペットは東京国際映画祭のシンボルとして、いまや海外の映画人にも広く認知されています。トーキョーと言えば、地球環境の保護を提唱した映画祭、グリーンカーペットと内外にアピールできたことは、最大の功績といってよいでしょう。
また「Action! for Earth」「映画の力」をキーワードに、人と映画、ビジネスと出会いの場を提供しようと積極的に尽力されました。労を惜しまず、率先してカンヌやベルリン、釜山を始めとする海外映画祭に出張され、ジェレミー・トーマスやキム・ドンホ、レイモンド・チョウといった偉大な映画人と親しく交流し、自らトーキョーの顔として旺盛に活躍されたのです。
連載企画

クロージングセレモニーでの依田チェアマン
©2012 TIFF

 
 

取材 東京国際映画祭事務局宣伝広報制作チーム
インタビュー構成 赤塚成人

 
今回のお話しの過去TIFF詳細はポスター画像をクリック!
(アーカイブされた過去TIFFサイトへリンクします)
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連載終了のご挨拶:森岡道夫→
 

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